私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
 俺の音に堕ちて酔いしれ、そして、俺はそんな奏花に近づいてキスをする。
 月の光が部屋を照らす静寂の中、俺達は二人いる。

「もう一回、弾こうか?」
「そうね、もう一度聴きたいわ」

 何度だって弾いてあげるよ。
 全身全霊、気持ちを込めて。
 君のためだけに音を奏でよう。

奏でるのは君のため【了】

いつもそばに【梶井】
『この電話は使われておりません』

 その言葉と同時にブツッと通話が切られた。
 余計なことを言っていないと思うのだが、仕事の話をしようとしただけでこれだ。

深月(みづき)め! 少しは大人になれよ!」

 舌打ちしてスマホを睨む。
 スマホを持っていた自分の手に銀色の輝きを目にした俺はハッとした。

「もしかして、あの二人、まだ結婚してないのか?」

 それなら、深月に余裕がないのも頷ける。
 子供と結婚するのはお断りというところなのかもしれないな。
 結婚するなら、あいつも大人にならないとな―――

「ただいまー! これ、見てっ! 梶井(かじい)さーん!」

 バーンッとドアを勢いよく開けた音に驚き、スマホを落としかけた。

「……ドアはそっと開けろよ。心臓に悪いだろ?」

 そして、なんだよ。
 その姿は。
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