私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
自分が隠し子だったと知り、驚いて父の顔を仰ぎ見ると、気まずそうに私から目をそらした。
ここでは、私の存在はなかったことにされていた?
父が母のところに通っていたことだけ周知されていて、私のことだけは知らされていなかったと。
清加さんは私と目を合わせず、小さい声でごめんなさいと言ってリビングから出ていった。

柊冴(しゅうご)

唯冬が小さな弟に清加さんを追うように目で合図すると、大人びた顔でうなずいて、リビングから出ていった。

「これからは私が渋木の家にふさわしい娘になれるよう、この子を教育していきますからね!」

なにも言い返すことができない父は苦々しい顔をしていた。
その目は私を見ずに。
もしかすると、私の母と関係を持ったことを失敗だと思っているのかもしれない。
それとも、私がいなければよかった?
叩かれた頬が熱を持ち、じくじくと痛み、泣き出しそうになった。
泣きたくはない。
私が泣いて同情してくれるような人は誰もいない。
『お前の立場で泣くのか』と、そんな目で見られるだけなのに。
そう思った時、彼の声が聞こえたような気がした。

『笑うといいよ。笑っていれば、誰も君を傷つけることはできない』

笑う?
そう―――私はそうするしかない。
< 38 / 172 >

この作品をシェア

pagetop