私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
それに婚約者同士の食事中に自分に惚れ直したなんて、いけしゃあしゃあとよく言えたものよ。
案の定、目の前の笙司さんは苦笑している。

「今日は女性を口説かずに真面目にバイオリンを弾いているのねって、思いながら聴いていたわ」

私の家の渋木(しぶき)家とは親戚同然であるのが彼の家の陣川家。
だから、彼が陣川製薬社長の次男というお坊ちゃんであったとしてもこんな軽口が許される。

「ひどいなぁ。俺はいつでも大真面目だよ?」

誘うようなウィンクしながら言っても説得力がない。
クラシック音楽界の王子と呼ばれるだけあって、人の目を引く彼は華やかな存在感がある。
女性客から熱い視線に手を振って応えていた。
―――これだもの。

「どこが真面目なのか教えて欲しいくらいよ……」

「んー? 服装?」

知久はスーツやタキシードを着崩していることが多いけれど、確かに今日はタキシードをきちんと着ている。
まさか、首までボタンをとめているから、自分は真面目だって言ってるの……?

「服装……」

知久をジッと見つめた。
長い髪を後ろにまとめ、前髪もあげて固め、真面目そうに見えるかどうか。

「見えないわね」

「えー!?」

小百里(さゆり)は知久君にいつも辛口だな」

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