私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
慰めなくてもロクでもないことを言い出してきた。

「入るわけないでしょっ!」

本当になにを考えて生きているのやら。
油断も隙も無い。

「知久。サンドイッチを食べたら? 夕食はまだでしょう? 音楽家は体が資本よ」

知久の気を逸らそうと、ルームサービスで頼んだサンドイッチやフルーツを差し出した。

「そう思うなら、食べさせてよ。今の俺はショックでサンドイッチどころか水も口にできない」

「なに言ってるのよ。そんな元気そうな顔をして」

「早く」

「……しかたないわね」

これくらいは許される。
そう思って、水を手にしてグラスを差し出し、口元に運んだ。
それが失敗だったと思ったのは、一口飲んで不敵に笑う知久の顔を見たときだった。

「小百里、まだ」

濡れた唇を舐めて、水を一口また飲む。
落ちた水滴が私の指に触れる。

「も、もう……、いいでしょ」

「そうだね」

私の手からグラスを奪い、水を一口含むと唇を押しあてた。

「……っ!」

口の中に水が一気に流しまれて、飲み干すとまた一口飲ませる。
お互いの濡れた唇が肌に触れて息を乱すと知久が笑った。

「知久っ……約束はどうしたのっ……!?」

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