私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「弾いて欲しい人がいるんだ」
唯冬は目立ちたがるほうではなかった。
目立つ知久を抑える役割をし、逢生君に対しては世話を焼き、二人の面倒をみるポジション。
そんな役回りとなっているのも、二人と一緒に活動しているという事情がある。
そう、弟達三人は学生時代から音楽事務所に所属している。
留学中もドイツでできる仕事は受けられるだけ受けていたとか。
留学を終わらせるとすぐに活動拠点をドイツから日本に移したけれど、その地位はすでに確立されていて仕事に困ることはなかった。
だから、ピアノ一台買うことくらいなんでもないのでしょうけど。
「私のお店にスタインウェイのグランドピアノを置いてどうするの!?」
「俺の片想いの相手に弾いてもらう。姉さんも知っているだろう?」
「知っているわ。でも、彼女は……」
弟の片想いの相手は雪元千愛さんといって私と同じ菱水音大附属高校を卒業している。
天才ピアニストとして有名だった彼女は学生の頃からコンクールの本選の常連でとても有名だった。
高校を卒業したら留学するだろうと言われていた。
けれど、突然弾けなくなり、彼女はピアニストの道を断念した。
「ピアノを弾けなくなったって聞いたけれど」