私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
彼女はもうピアノを弾いていないようで、この店にお客としてやってきてもなにも話さずただ自分の世界に閉じ籠り、食事をして帰っていく。
私が見る彼女はいつも一人だった。
その孤独な姿から、天才と呼ばれた彼女の今の生活がどんなものであるのか、見て取れた。
声をかけると、消えてしまいそうな気がして、私は声をかけれず、彼女の様子を見守るしかなかった。
そんな彼女を弟はどうしようというのだろう。
「唯冬。このカフェは居心地のいいものであって欲しいのよ」
「わかってる」
傷ついた彼女が癒されるような場所であって欲しいだけ。
私はこれ以上、彼女を追い詰めないでと、唯冬に言ったつもりだった。
「そのままでは癒えない傷もある。強引なのは百も承知だ」
唯冬の目は強い決意の目をしていた。
「彼女はこちら側の人間だ。弾くために生まれてきた。姉さん。彼女は知久と同じ種類の人間なんだよ」
私と唯冬は同じことを感じ、考えていたのだと知った。
唯冬は千愛さんの音がすべてで、私は知久の音がすべてだった。
12 私のタイムリミット
「彼女は弾ける。俺は彼女をもう一度、ピアノの道に戻すためピアニストになった」
「唯冬……」
私が見る彼女はいつも一人だった。
その孤独な姿から、天才と呼ばれた彼女の今の生活がどんなものであるのか、見て取れた。
声をかけると、消えてしまいそうな気がして、私は声をかけれず、彼女の様子を見守るしかなかった。
そんな彼女を弟はどうしようというのだろう。
「唯冬。このカフェは居心地のいいものであって欲しいのよ」
「わかってる」
傷ついた彼女が癒されるような場所であって欲しいだけ。
私はこれ以上、彼女を追い詰めないでと、唯冬に言ったつもりだった。
「そのままでは癒えない傷もある。強引なのは百も承知だ」
唯冬の目は強い決意の目をしていた。
「彼女はこちら側の人間だ。弾くために生まれてきた。姉さん。彼女は知久と同じ種類の人間なんだよ」
私と唯冬は同じことを感じ、考えていたのだと知った。
唯冬は千愛さんの音がすべてで、私は知久の音がすべてだった。
12 私のタイムリミット
「彼女は弾ける。俺は彼女をもう一度、ピアノの道に戻すためピアニストになった」
「唯冬……」