私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】

12 私のタイムリミット

「彼女は弾ける。俺は彼女をもう一度、ピアノの道に戻すためピアニストになった」

唯冬(ゆいと)……」


「だから、彼女が就職する時、渋木が所有するアパートを不動産屋に紹介させた」

あ、あら?
今のは聴き間違え……よね?
なにか今、不穏な言葉を耳にしたような気がした。
さっきまで、唯冬はとても素敵なことを言っていたような気がする。
気がするんだけど、それが突然、なにか犯罪的なものに変わった?

「唯冬! あなたね! わざとこの店の前を通るように彼女の住む場所を決めたのね? 彼女のことを留学中も監視できるように!」

「人聞きが悪いな。見守っていただけだ」

「なにが見守っていたよ。完全にストーカーよ!」

「そうでもしないと彼女と自然に出会えないだろう?」

「なにが自然に出会えないよ。すでに不自然よ。こんな小さなカフェにスタインウェイのグランドピアノがある時点でね」

唯冬もそれには同感だったらしく、苦笑した。

「上等なピアノの音を聴けば、また彼女はピアノを弾きたくなるかもしれない」

なんて腹黒いの。
我が弟ながら、とんでもない策略家すぎて恐ろしい。
開いた口が塞がらないとはこのことよ。

「姉さん。運命は作るものだよ」

類は友を呼ぶ―――ウインクする知久の顔が頭に浮かんだ。
知久も最近、おとなしいけど、なにか企んでいるってことはないわよね……

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