私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】

13 従姉妹

唯冬(ゆいと)が購入したスタインウェイのグランドピアノは私の夢の一歩だったかもしれない。
このピアノに惹かれて、菱水(ひしみず)音大附属の子がやってくるようになった。
カフェ『音の葉』に置かれたグランドピアノは時々、唯冬がふらりとやってきて弾く。
なにを思って、誰を想って、弾いているのか、私にはわかる。
まだ唯冬の片想いの相手である雪元(ゆきもと)千愛(ちさ)さんは現れていない。
唯冬は待っていた。
その唯冬を見守りながらも、お店はお客様が増え、私は忙しくしていた。

「そろそろアルバイトを雇おうかしら」

売り上げを眺めながら言うと、穂風(ほのか)も賛成してくれた。

「私は反対しないよ。常連も増えてきたし、ミニコンサートを始めるなら今より忙しくなる。二人じゃきついよ」

穂風はまた髪の色を変えた。
金髪に染めたベリーショートにピアス、色白で目鼻立ちがはっきりしているからか、日本人離れをした容姿をしていた。
そして、身長も女性にしては高く、男性に間違えられることが多々あった。
お客様が増えているのは、穂風の存在もあるんだけど……

「グランドピアノの効果かな?」

菱水音大の女子学生が増えた―――さらに増えたのは穂風がカウンターに立っている時だという事実。
キッチン担当だから、お店に出ている時はそんなに多くはないけど、カフェ『音の葉』の罪作りな存在よ。

「そうね。ディナータイムも始めたものね」

前はやってなかったディナータイム。
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