私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
笙司さんの写真を毬衣さんに手渡すと、手をパンッと叩かれて写真が散らばった。

「返さなくていいわよ! なに、平気なふりをしてるの? 悔しいでしょ?」

いいえと言えば、また面倒なことになりそうだと思い、曖昧に笑ってかわした。

「なによっ! 私より惨めなくせにもっと不幸そうな顔をしていなさいよ!」

毬衣さんは赤い顔をして、私にそんなセリフを吐いて、乱暴にバッグを掴んで店から出て行った。
まるで、台風のようだった。
穂風はやれやれと髪をかきあげた。

「毬衣は全然変わらないな。小百里、塩をまいておこうか」

「そうね」

「毬衣はさ、知久君が留学から帰ってきたら、結婚するって周りに言いふらしていたんだよね。けど、あの分だと結婚はまだまだかな」

毬衣さんは焦っていて、そんなことをしたのだと思う。
それは、知久が留学から帰って来て、すでに一年が過ぎ、もうじき二年目の夏。
日本での仕事が順調で、知久は経済的に自立していた。
それなのに結婚の話は遅々として進まない。

「陣川の家の都合もあるのでしょうね」

知久の家も渋木に負けず劣らず、家の利益を優先する。
陣川家は思っていた以上に知久が有名になり、知久の結婚に慎重になっているのかもしれなかった。
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