私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
最近では、知久や妹さんの結朱(ゆじゅ)さんを陣川製薬の広告塔として使っている。
それもあって、まだ結婚は早いと考えていそうだった。
アイドルのように売り出している知久を結婚させると、稼げないと踏んでいるのかも。

「唯冬達は留学に行って、自分達の存在価値をあげたのね」

足掻いていた私とは大違い。

「小百里。自分だけ変わってないって思ってるの?」

穂風が私のつぶやきを聞いて笑った。

「小百里だって、変わったよ」

「え?」

「渋木の家から出て、ビルの経営も始めて、カフェ『音の葉』を開店させた。簡単にできることじゃない。すごいよ、小百里は」

「そんなことないわ。穂風がいてくれたから、できたのよ」

「うん。私も小百里がいて心強いよ。ディナータイムが始まる前にちょっとお茶でも飲んで、休憩しよう」

ぽんぽんっと私の背中を穂風が叩いた。
優しい穂風。
私にたくさん聞きたいことがあるはずだった。
でも、昔から、無理に聞き出そうとはせず、それとなく察してくれていた。
毬衣さんが流した私への悪い噂も信じることなく、私と友達でいてくれる。

「そうだ。小百里。国産の紅茶の葉を仕入れてみたんだ。飲んでみようよ」

「そうね」

カフェ『音の葉』は私にとって宝物。
ティーポットに熱いお湯が注がれ、紅茶の葉のいい香りが広がった時、私はこの店を開いてよかったと心から思った。
ここは私が作った居場所。
ずっと居場所がなかった私が手に入れた家だった。
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