私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
同じ音楽事務所に所属して三人セットで売り出されているけれど、以前より個人での仕事が増え、それぞれの実力が認められ始めていた。

「ねえねえ、あれってさ」

「絶対そうよ!」

静寂と穏やかな時間が売りのカフェ『音の葉』。
それが、今や静寂は遠ざかり、店内はざわざわと騒がしく、通りかかっただけの女性客が、誘われるように入って来て、あっという間に満席になってしまった。
そして、ディナーメニューを眺めるふりをしながら、三人を盗み見ている人達。

「三人は花のように人を誘うね」

キッチンから顔を覗かせた穂風は詩的に言ったけれど、私の感想は違う。

誘蛾灯(ゆうがとう)の間違いでしょ」

私の頭上に黒い影ができて、見上げると知久がいた。

「誘蛾灯って、ひどいな。俺は花に惑わされる蝶だよ」

こっちが誘蛾灯扱いかしらと考えていると、知久が自然な仕草で、さりげなく私の髪に触れようとした。
すばやく、手にしていた木製トレーでガードする。
知久はそれを軽やかに避けて、器用に壁に手をついた。
そして、上から私を見おろす。

「ね? 小百里さん?」

「なにその、攻防戦は……」

穂風が私達の攻防戦を見て、呆れていた。
見てないで助けて欲しかったけど、いつもの悪ふざけだと穂風は思ったらしい。
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