私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「小百里の婚約者だよ。なかなか決まらず心配していたが、姉さんが、ぜひというくらいの相手なんだ」

私を引き取ってから、父は章江さんと険悪になっていた。
だから、父はこれで、章江さんと仲が修復できたとほっとしているようだった。

「私、婚約なんてまだ早いと―――」

「早くありませんよ。渋木の娘として婚約させてあげたのだから喜びなさい」

「姉さん。DNA鑑定をして、小百里は娘だと証明されただろう? そんな言い方はやめてくれ」

鑑定―――?
そんな話は聞いていない。
いつの間にDNA鑑定なんてしていたのだろう。
父はやっぱり私を本当の娘かどうか、疑っていたのだと知った。
ぐらぐらと足元が揺れていた。
倒れないようにするので、精一杯。
いつもの笑顔は私の顔から完全に消えていた。

「小百里。これで親戚も少しは静かになる。よかったな」

よかった?
なにがよかったのだろう。
父は肩の荷が下りたとばかりに息を吐いた。
私を見て、婚約者となった笙司さんが微笑んでいる。
笑っていないのはきっとこの中で私だけ。
今、笑顔なんて作れない。
作れないわ―――知久。
心の中で知久の名を呼んでいた。

「毬衣も知久さんと婚約できたことだし、これで渋木の一族は安泰ね」

知久の名前に私は身を強張らせた。
私の婚約だけじゃなく、知久まで婚約者が決まった。
それも相手は毬衣さんで。
この場で、私の本当の気持ちなんて、言えるわけがなかった。
なんてあっけないのだろう。
私の幸せな時間は終わり、目の前で幕が閉じたのを感じていた。
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