私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】

18 夜が明けるまで【知久】

すべては君を手に入れるため。
その体も、心も、魂も、すべて俺のもの。

「なんてね」

バイオリンを手にして彼女―――小百里を眺める。
癖のある長く波打つ栗色の髪、白い肌、人形のように整った顔。
まるでマリア像のように彼女は美しかった。
初めて彼女が親戚の前に姿を現した時、悪口の山を言われていたけど、今ではその声は少ない。
従姉妹の毬衣さんより、優秀で美人で素直ってのが周りの意見だけど、素直ってところは同意できない。
自分の気持ちを偽って、俺から逃げようとするから。

「気に入らないな」

「知久。誰が聞いているかわからない。気を付けろよ」

隣にいた唯冬(ゆいと)は胸の前に腕を組み、壁に寄りかかって俺と同じ男を眺めていた。
俺と唯冬が見ている男は瀬登(せと)笙司(そうじ)
小百里の婚約者になって、渋木の家の集まりに呼ばれて、親戚の一員にでもなったかのように振るまい、満足そうだ。

「あの男は相当の野心家だな」

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