私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「知久もだろう?」

唯冬(ゆいと)が俺を横目で見て、笑みを浮かべた。
俺と小百里が付き合っていると知っているくせに知らないふりをする親友(っていうと怒られる)。

「そう。俺も野心家だね」

「それなら安心だ」

俺と唯冬には婚約者がいる。
自分から望んだわけじゃない。
家が勝手に決めたことで、俺達の気持ちなんか、最初からお構いなしだ。
この場に俺の婚約者も唯冬の婚約者もいる。
俺には渋木家の親戚である高窪(たかくぼ)毬衣(まりえ)が、唯冬には俺の妹である結朱(ゆじゅ)がいる。
婚約したことを知っているはずの女性達は俺達を見て、隙あらば婚約者から奪おうとしている。
けど、俺も唯冬も欲しいのは彼女達じゃなかった。
小百里を見ると、うまく溶け込み笑顔を見せている。
渋木家のために小百里は相応しくあろうとしている。
その姿は唯冬の母親に重なる。

「息苦しい生活だよ」

「まったくだ」

俺の言葉に唯冬も同感らしく、ため息をついた。
俺達はまだ無力な高校生。
とはいえ、最近は音楽事務所に声をかけられて、ちょっとした音楽活動を始めた。
親から自立するために。
これが俺達の野心であり野望。
その一歩目でしかない。

「早く大人になりたいな」

「そうだな」

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