私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「この部屋にいると外に出たくなくなるって」

知久が笑う。

「わかる気がするな」

目を閉じ、知久は私の髪をなでる。
私も目を閉じる。
ここに知久をずっと留めていられないことはわかっているの―――そう思った時、耳に波の音が聞こえた気がして、目を開けた。
知久が起き上がり、私の顔を覗き込んでいた。

「眠っていいのよ」

「眠れるわけがない」

知久は笑いながら、キスをする。
もう何度目なのと思いながら、そのキスを受け止めて、私からキスをする。

「素直な小百里なんて十年に一回くらいだから、堪能しておかないともったいない」

「ひどいわね」

「否定しないからなー」

「お互い様でしょ」

「俺はいつも自分に素直に生きてるけどね?」

知っているわ。
だから困るのよと思った瞬間、ベッドの上に押し倒された。

「知久……!」

シャツを脱がし、首から胸まで全て喰らい尽くすような愛撫を繰り返した。

「素直な俺が好きなんじゃなかった?」

「……っ」

耳朶を甘く噛んで髪にキスをする。

「答えて。小百里」

挑発的な目に煽られて、私は答える。

「素直じゃなくても好きよ」

そう言えば、知久は私に負けてしまう。
< 95 / 172 >

この作品をシェア

pagetop