私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
私が勝ち誇った笑みを浮かべると、知久は『ずるいな』と小さくつぶやき、余裕ぶった表情が崩れてさっきまでの遊びみたいな浅いキスではなかった。

「ん……」

知久のキスはうまいと思う。
他の人のキスを知らないけれど、私の感情を滅茶苦茶にして、頭をおかしくさせるから。
唇を食み、柔らかな舌になぞられると頭の中は冷静ではいられなくなる。
狂いそうになるほどの甘いキスを繰り返し、息を乱した知久が上から私を見下ろしていた。
その目はこの続きをしていいか、どうか。
私にそう語りかけているような気がして、私は知久の頭に手を伸ばして応える。
知久の髪に結んでいたゴムをほどいて、抱き締めた。
長い髪が体に一筋、また一筋と落ちて、知久の本性を暴いていく。
なににも縛られずに今だけは―――

「手加減できないかもしれない」

胸に落ちた知久の髪がくすぐったくて、私は微かに笑った。

「笑うんだ」

仕返しとばかりに肩に噛みつき、赤い跡を残した。
その跡をゆっくりと舌でなぞられると、肌がざわりと粟立つ。
これから喰らう獲物を吟味しているようで舌が肌をなぞり、胸へから脇へ、太ももへと撫でられて体を悶えさせると、知久は満足そうに目を細めた。
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