真夜中のミルクセーキ
- 純愛は たえて久しくなりぬれど。

「うわあ!!」
ある夏の夜、残業中にいきなり停電になった。

「わっ! 点いた!」
「パソコン大丈夫ですか!?」
オフィスが阿鼻叫喚に包まれる中、
デスクトップパソコンの前でフリーズしている私に先輩が自分の作業を中断して飛んで来てくれた。力強い声をかけてくれる。
「あ……」
私は先輩の顔を見て、つい、うるうるしてしまった。

「はい」

結局オフィスの誰もが帰っても、私は仕事の続きをしていた。
ここは小さなデザイン会社。東京日本橋の駅から徒歩5分ほどの雑居ビルの4階にある。
私が今やっている仕事は来年の5月に出る文庫の表紙カバーと帯のデザイン。
明日までに上げるはずだったのに、停電でデータが一部吹っ飛んだ。
先輩がクリーム色の缶をひとつくれる。冷え冷えだ。これでおでこ冷やしたい。肩がガチガチに固まってこめかみがミシミシ言う。

「ミルクセーキ」
「コーヒーじゃなくて?」
「ただでさえ疲れてるのに眠れなくなったら困るでしょう」
「糖分過剰摂取で寝落ち案件にならなきゃ良いんですけど。ありがとうございます」
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