真夜中のミルクセーキ
いつもならひとがぎゅうっといて活気のあるこのオフィスだけれど、今はすみっこに飾ってある鉢のゼラニウムも他人行儀だ。白けた顔。白。
シュッと小さな音を立てて、先輩が大窓のブラインドを閉めた。ネオンでブラインドがほんのりひかる。あたたかい白色に。

「先輩は帰らないんですか?」
「送っていきますよ。終電には間に合わないでしょう?」
「大丈夫ですよ。タクシー切って貰いますから」
「あなた、年末の査定、今から頭が痛いですよ?」
どうしても私を送るつもりかな。私はパソコンから顔を上げて、私のそばに手近な椅子を引っ張ってきて座る先輩をちらりと見た。

185センチメートルの長身でやや細身だけれど胸は厚い。
切れ長の目、浅黒い肌、通った鼻筋。逆三角形の輪郭と薄紅をはいたような唇。しっかりアイロンのかかったクリーム色のワイシャツに黒糖色のボトム。さっぱりとしたいで立ちだ。
低めの落ち着いた声。つやを感じる。純度の高いメープルシロップみたい。

ウォーターサーバーの隣の白い壁に飾られたメダルや盾は、彼が国内外で高く評価されていることを示している。けれど彼自身はそのことを一度も口にしたことがない。
ただ、黙々と仕事をし、黙々と勉強をし黙々と結果を出す。本屋や文房具屋へ行けば、彼のデザインしたものが山ほど見られる。

どうしてあなたはこんな小さな会社にいるのか。実力も行動力もあるのに。(魅力も)
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