真夜中のミルクセーキ
「す、凄いですね。最近の恋愛小説って」
「凄い?」
何か話さなきゃ、と思って、目の前の画面を見る。え、えーと、えー……
「何て言うのかな? 甘々、とか、俺様、とか、えーと、悪役令嬢? 転生、とか。
こう言うのを普通の女のひとは好んで読むんですね」
私が今作っているデザインもメタルピンクに銀色のラメを散らしたもの。
「オトナ女子のための恋愛小説」を売りにしている小説レーベルのものだ。

「わ、私は、もっと穏やかな恋愛が良いって言うか、」
間が持たなくて、私はついつい言葉を続けてしまう。自分でも何を言っているかわからないから、先輩にはもっとわからないだろう。
「純愛みたいなのが良いかなぁ、って」
(先輩はこんな話、興味ないだろうなぁ。でも、口、止まんない。静かになるのイヤ)
「あ、もちろんいろいろしても良いんですけど、
いろいろした後に甘やかされてぎゅうってされてぎゅうっとして、このひとといられて幸せだなぁって、」
「『純愛は』。
このコピー作ったのあなたですか?」

「え?」
「『純愛は たえて久しくなりぬれど』。
このコピーを作ったのはあなたですかと聞いています」
いつの間にか先輩が私の脇に立って、いっしょにパソコンを覗き込んでいた。け、気配を感じなかった!!
(わー!! 個人情報ー!!
せめて一言「見る」って言って!!)

「遊びで作ったものですよ」
「これ、もとは百人一首でしょう?」
「そうです」
なぜだろう。(ドキドキする)
先輩は顎をゆるゆるとさすりながら何かを考えている。
香水なのかデオドラントなのかチャイみたいなリラックス系のあまいにおいが、ふわふわと私の鼻をくすぐっている。(心も)

「あなた。
来週の企画会議に参加してください」
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