第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している
ひとりで剣を振っていた。

心を無にしようとするたび、思い出すのは――あの夜の声。

ふと気配に気づき、顔を上げると、向こうからアシュレイが歩いてきていた。

私は無言で剣を鞘に納め、その場を去ろうとした。

「……リリアーナ」

呼びかけられても、私は聞こえないふりをした。

でも――逃げきれなかった。

腕を、そっと捕まれた。

それでも私は彼を見ない。

見れば、また気持ちが揺らいでしまいそうだった。

「避けてるの? 俺のこと。」

「……あなたには、お妃様がいます。」

それさえ言えば、きっと彼は私を諦めてくれる――そう思ったのに。

「もう……俺はカトリーナを愛せない。」

その言葉に、胸の奥がぐらりと揺れる。

それでも顔を上げられない。

あの夜、彼が別の人と交わった現実が、私の足を止めていた。

「リリアーナ。あの夜を、俺は……忘れられない。」

アシュレイの声が震えていた。

それは、後悔でも未練でもなく――ただ、真実の告白だった。
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