野いちご源氏物語 三〇 藤袴(ふじばかま)
玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)は、源氏(げんじ)(きみ)だけでなく実父(じっぷ)内大臣(ないだいじん)様からも(みや)(づか)えを(すす)められて悩んでいらっしゃる。
<どうしたものだろうか。内裏(だいり)に上がって、もし(みかど)からご愛情をいただくことになったら、中宮(ちゅうぐう)様も弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)様もご不快にお思いになるだろう。頼りになる後見(こうけん)役の父親がいればよいけれど、源氏の君は信頼しきれないし、内大臣様はどれほど私を大切にしてくださるか、まだ分からない。かといって他に頼りにできる人もいないこのような身の上では、『生意気だから恥をかかせてやろう』という方もいらっしゃるだろう。とても内裏で(おだ)やかに過ごせるとは思えない>
すでに二十歳を過ぎた方だから、ご自分で深く考えては悩み(なげ)いていらっしゃる。

<宮仕えなどせず、ずっと六条(ろくじょう)(いん)にいさせていただこうか。それも悪くはないけれど、やはり源氏の君の厄介(やっかい)なお気持ちが困る。いつか世間に()れて、私と源氏の君をよからぬ関係のように(うわさ)されてしまうのではないか。内大臣様は源氏の君に遠慮して、私を引き取るおつもりなどなさそうでいらっしゃる。宮仕えをしても、このお屋敷にいつづけても、結局は笑い者になる運命なのだろう>
しかも、内大臣様に本当のことをお知らせになったあと、源氏の君は姫君への恋心を(かく)そうとなさらなくなった。
姫君はますます一人でお悩みになるの。

こんなときに母君(ははぎみ)がいらっしゃれば、すべてではなくても、少しは悩みを打ち明けられるはず。
でも姫君の母君はもう亡くなっている。
源氏の君も内大臣様もご立派すぎて、ご相談相手にはできない。
<世にもめずらしい困った境遇(きょうぐう)だ>
姫君はぼんやり物思いをしながら、夕暮れ時の寂しげな空を縁側(えんがわ)からご覧になっている。

裳着(もぎ)儀式(ぎしき)からしばらくして大宮(おおみや)様がお亡くなりになった。
孫君(まごぎみ)として灰色がかった(うす)(むらさき)色の喪服(もふく)をお召しなの。
地味なお着物で華やかなお顔立ちが引き立てられていらっしゃるのを、女房(にょうぼう)たちは微笑(ほほえ)んで拝見している。
そこへ若君(わかぎみ)がお越しになった。
同じように孫君として喪服をお召しなのが上品でお美しい。
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