野いちご源氏物語 三〇 藤袴(ふじばかま)
若君(わかぎみ)はずっと姉弟(きょうだい)として真面目に接していらっしゃったから、今になってよそよそしいお扱(あつか)いをするのもお気の毒で、これまでのように姫君(ひめぎみ)はついたて越しに直接お話しをなさる。
源氏(げんじ)の君(きみ)からのご伝言をお伝えにいらっしゃったの。
ついに『尚侍(ないしのかみ)として宮(みや)仕(づか)えせよ』という帝(みかど)のご命令が下ったみたい。
姫君はおっとりと、でもきちんとお返事なさる。

そのご様子が知的でおやさしいので、若君は台風のあとにちらりと拝見した姫君のお顔を思い出される。
あのときは姉弟だと信じていたから恋心を抑えなさったけれど、<今なら問題ないはずだ>とお思いになるの。
<しかし、父君(ちちぎみ)がこの人をお諦(あきら)めになるだろうか。宮仕えに上げたあとも関係をお続けになって、六条(ろくじょう)の院(いん)のご立派な女君(おんなぎみ)たちとの間で揉(も)め事(ごと)が起きるのでは>
姫君のご将来まで心配なさるけれど、お顔には出さずにさりげなくおっしゃる。
「父から『人には聞かせないように』と言われたご伝言がございます」
女房(にょうぼう)たちは気を遣(つか)って少し離れた。
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