あなたがいてくれるから


でも、この名前は両親が一生懸命考えて、つけてくれた名前だと知っているから。

─バカみたいな話。その家庭は、もうないのに。

「凛空くん」

玲瓏な彼女の声が、凛空の耳を突く。
顔を上げると、彼女は優しく微笑んでいて。

「─天宮凛空くんって、すごく綺麗な名前だよね」

「っ」

「ずっと素敵だな〜って思ってたんだよ」

彼女はそう言いながら、掲示されるテストの話をした。

定期テストが行われる度、彼女はいつも2位で、1位の自分と名前が並んでいて、それだけで仄暗い感情を抱いていた凛空は、彼女の笑顔を直視出来なかった。

「だから、私の方が先に友達になりたかった。なのに、誉に先越されちゃった」

「……え」

「連絡先、ありがとう。嬉しかったんだ〜」

えへへ、と、照れくさそうに笑う彼女をどうして、自分は抱きしめる権利を持ってないのか。

「誉にさ、勉強を教えることになったんだよね?もし良ければ、なんだけど。たまに、お邪魔させてもらってもいいかな」

「……上手く、教えられるか分からないけど」

一体、何が起こってるのだろう。
状況を整理できなくて、今にも逃げ出したい。

「良いの。凛空くんが、勉強をしている姿を見たいんだ〜。そしたら、次は勝てるかもでしょう?」

─取り繕うことは、得意だったはずなのに。

「…………うん」

間を置いて呟くと、

「ありがとうっ」

あの日、ストンと胸に落ちた笑顔を向けられる。

そう。はじまりは、何気ないことだったんだ。
誰にでも優しい彼女が、図書室で黙々と勉強する姿をたまたま見かけて、『何でも出来る優等生』の裏側を見た気がした。

その後、誰かと電話をしていて楽しそうな姿を見て、『温室のような家で大切に育てられてきたんだろうな』って僻んでしまうくらい、彼女が綺麗に見えた。

それだけだったんだ。見てるだけだった。

─そんなある日、取り巻き達が、凛空の悪口を言っていて。
本人がいるかもしれないところで言うなんて、詰めが甘いな〜なんて思っていたら。

『─本人が居ないところで言うくらいなら、面と向かって言ってはどうですか?』

彼女が、口を挟んだ。
学年の中では高嶺の花で、誰も手が届かない存在で、そんな彼女が。


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