あなたがいてくれるから


『何より、覚えが早いからって、彼が努力していないとは限らないでしょう。彼を利用する話で盛り上がる前に、あなた方にも出来ることがあるのでは?何より、友人だと思っているあなた達にそうやって言われると、彼も傷付きます。何をしても平気そう、なんて、どうしてわかるんですか?そう見えるなら、傷つかなくなったわけじゃなくて、何も感じなくなったわけでもなくて、そういう振りをすることが人一倍、上手になってしまっただけだと思いますよ』

─多分、彼女からすれば、純粋な興味だった。
そして、思いだった。でもそれは、凛空には。

『凛空は分かってくれるだろ……?』

そう言った、父親。

『私の方が母親として相応しいわ』

そう笑った、父親の運命。

『凛空はっ、どこにも行かないっ?お母さんを置いて、どこにも─……』

不安定に、泣きじゃくる母親。

─そんな中、凛空に出来ることは。
仮面のような笑顔を貼り付けて、父親のようにならないよう、母親を一人にしないよう、何事もないように過ごして、就職して、生きていく。

だから、その時、彼女に諌められた奴らが彼女の悪口を言って、彼女に対する嫌がらせの話をしていた時、手が出てしまった。

陰口を言っている素振りすら見せず、凛空の前で平然と、彼女を貶める話をする奴らに腹が立って、殺意が湧いて。─今思えば、短慮だった。

彼女は“姫”と呼ばれるだけあって、“騎士”たる存在が居たのに。

『怪我をさせてごめんね。ありがとう……』

そう言って泣く彼女を見て、認めざる得なかった。─それは、自分を傷つけるだけなのに。

『これ、あの時のお礼。本当にごめんね』

『気にしなくていいのに』

自覚してから、とても辛かった。
見かける度、彼女は話しかけてくれて。
でもそれも、学年があがるとなくなった。

なのに、誉が転入してきてからまた、彼女は。

『頭、花びらがついてる』

『え?』

『─ん。取れた』

『あ、ほんとだ。ありがとう』

─本当に、この持て余す感情をどうすれば良い。

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