あなたがいてくれるから
初恋は叶わないって言う。
なら、早く破れてくれ。
粉々に、砕け散ってくれ。
これ以上、近くにいたくない。
これ以上、彼女の視界を汚したくないんだ。
「─凛空くん?」
「ん?」
「凛空くんは、お昼ご飯食べないの?」
サンドイッチを食べながら、彼女が首を傾げる。
これまでは、昼休みは今の取り巻きたちと適当に時間を潰していた。
誉が来てからは、誉とずっと一緒にいる形になっているから、意識していなかったけど。
「うん。食べないかな」
「お腹空かない?」
「ほら、俺、サボり魔だから」
お腹を空くようなことをそもそもしていないし、“そういうこと”をした時ですら、虚しさしか残らず、トイレで戻す日々。
「嫌いじゃなければ、なんだけど」
─この学園の生徒は基本、食堂で食べる。
でも、彼女は、彼女の幼なじみ達はいつも、食堂には現れなかった。
今思えば、こうやって人目がつかないところで、お弁当を持参して食べていたのだ。
「私が作ったもので申し訳ないんだけど、食べない?」
彼女が差し出してきた、小さいサンドイッチ。
「沢山あるの。食べきれないかもしれないから」
「……良いの?」
「うん。あ、でも、無理しないでね。食べきれない分は、誉の口にでも流し込むからっ」
「フッ」
“姫”と呼ばれる彼女の必死な姿。
彼女に定期的に雑に扱われる誉は向こうで、婚約者であるという彼女を膝に乗せて、楽しそうに笑ってる。
「ありがとう」
何年ぶりかに食べる、お昼ご飯。
崩壊後、家から無くなった時間。
それは中学に入り、全寮制になってもなお、戻ってくるものでもなかった。
(─ああ、でも)
ひとくち食べれば、腹の奥が満たされるような。
(そうだった。お腹が空くって感覚)
懐かしい感覚に、凛空は擽ったさを覚えた。