あなたがいてくれるから
「─良い男だもん。こいつ」
誉がそう言うと、
「いや、お前の目はどこについてんだ……数ヶ月前までの俺の所業を思い出せよ」
と、凛空は呆れ顔。
自分で言うのはどうなんだろうとは思いつつ、
「─んで、今日、凛空を連れていかない方が良いと思う理由は?」
と聞くと、亜希が耳元で内緒話。
「『デート服買うんだって』」
「…………一周まわって連れて行けば?」
世間の常識はよく分からないが、それはそれで互いにハッピーな空間を生み出せそうだと思う。
「あと、杜希が仲間が欲しそうで」
「杜希も巻き込むんか!」
「人が多い方が楽しい」
「……亜希ちゃんは1度、ネットで『女子会』について調べてみたら良いかもね」
それでは、いつもの幼なじみでの集会と変わらないではないかと思いつつ、電話をする。
相手は勿論、葵咲。
「─Goodmorning、御機嫌は『良いわけないでしょ、馬鹿お兄ちゃん』……はい」
ワンコールで出た葵咲は、誉の言葉を思い切り遮って、お怒りモードである。
『メール、読んだの?』
「読みました」
『何を考えているの?』
「……お前の幸せ?」
嘘では無い。そう思いながら言うと、返ってきたため息。
『今日、お兄ちゃんは来るの?』
「ん〜、亜希ちゃん曰く、女子会らしいけど」
『うん、まぁ、そうだね』
「俺達、男の子なんですよね」
『知ってるけど』
「じゃあ、女子会の名前を改めることは可?」
『名前に拘ってるの?』
「いや、だってさ……俺達行ったら、普通の遊びじゃない?」
『……それはそうだね』
意外な所で、適当人間な葵咲。
「あと純粋にさ、買い物に付き合う勇気がない。間違いなく、俺達は役立たずだろ。俺に至っては、金しか出せねぇよ」
『お金は出してくれるんだ……』
「可愛い妹と可愛い婚約者の為なら、いくらでも」
『お父さんとお母さんに怒られるよ。気持ちは嬉しいけど』
「怒られる言われはないよ。特に、父さんには」
何か理由をつけては母さんにプレゼントを贈る父さんを思い出していえば、向こうで葵咲も納得したように頷き、
『じゃあ、杜希に申し訳ないな』
相変わらず、妹の中では亜希は亜希であり、男でも女でもないらしい。
杜希が孤立することを悩んでいる葵咲は優しく、とても良い子だとは思うが、そんな孤立は全く気にするタイプではない、超絶マイペース外見騙し男なので、問題ない気も─……。
「じゃあさ、亜希ちゃん含む3人で買い物とか行ってきたら?杜希と俺らは男子会するから」
『男子会?』
「その方が互いに自由に行動出来るだろ」
その一言で、話が終わる。
女子会と男子会の同日開催。
どちらかと言えば、生物学的には男子会参加になる亜希ちゃんはにこやかに、ワンピースを翻しながら、女子会へと出かけていく。