あなたがいてくれるから



「う〜ん、強い」

昔からだけど、亜希の堂々とした姿は尊敬する。
別に性自認が女とか、家の問題でそちらの姿でいる方が都合が良いとか、そんな理由があるなら、何とも思わない。

例えば、可愛い洋服が好きだとか。
でも、亜希にはそれがない。

“ただ、似合うから”

“可愛い私が可愛い格好をしないのは、損だから”

あまりにも強気の発言のそれに、亜希の両親の顔を見てしまった。

亜希の両親はのほほんとした、穏やかで優しい人達だ。母親は芯の強い面もあるが、基本、優しく微笑んでいて、亜希の女装は母親に瓜二つ。

男の子ゆえ、少し身長が高いくらいの違いのみ。

『まぁ、亜希が良いなら?』

『これも似合うんじゃない?』

という感じで、夫婦揃って、亜希のそのままを尊重している姿は立派だが、特に理由もなく可愛い格好をして、様々な人を業界問わず誘惑し、面倒事を持ち帰っては丸投げしてくるのは、本当にいい加減やめて欲しいところである。

そういう迷惑行為をしないのならば、全然、好きなだけ、着飾ってくれて構わない。

前、亜希の可愛らしさに騙されたとある金持ちの男が、誉を亜希の婚約相手だと勘違いし、事業の邪魔をされた時は家の権力をフル活用の上、法的処置もとった。

結果として、家にとっては取引先のひとつである家の男は、身の程知らずにも葵咲の婚約候補に収まろうとしていた野郎だったので、その排除に役立ったが、そのようなことが一度二度じゃなく、そう頻繁に起これば、怒りたくなる。

「亜希、母親似?」

「うん……そんで、うちのスパイみたいな」

「スパイ?」

「そう。うち、それなりに名家だって話したろ?その関係で、こちらと縁を持とうと手段を選ばないやつは一定数いて……その家を破滅させてる」

「……没落ってことか?」

「まぁ、端的に言えば。頼んではないからな。いくら、俺がシスコンとはいえ……家の為に、より、葵咲のための結婚相手を探しているだけで、葵咲が拒絶するなら、どんな完璧な男でも許さないつもりなんだ。なのに、亜希は『ふたりが大好きだからね』とか言って、相手を惑わせて、こちらの家の不利益になるものを徹底的に絞り出して帰ってくる。後始末は勿論、俺」

「……」

「わかるか?言いたいこと」

「ま、まぁ、何となく」

「そらよかった」

のんびりと学校生活を楽しみたいという理由で、誉が両親に願えば、後始末は父親が片付けてくれるだろう。

妻至上主義な父親は勿論、娘の葵咲のことも溺愛しているから、間違いなく、動いてくれる。

問題はその後、どうやってもその身内を救いようがないほど、あの人は片付ける脅威がある。



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