あなたがいてくれるから
𓂃𓂂ꕤ*.゚



「ねぇねぇ、どこから来たのー?」

「えっ、秘密〜♡」

「彼女とかいる??」

「え〜、いないって言ったらどうすんの?」

─昼休み。早速絡まれている奴。

「うわっ、ダル」

「昼飯食おうぜ、凛空」

俺のステータスしか見ていない奴らがやっかみみたいな文句を言いながら、奴に冷めた目を向ける。

「……」

こいつらと付き合うのすら、面倒くさい。
どうせ昼食にも他の女がいて、面倒くさい展開になることは読めているし。

「あ、そうだ。─なぁ、凛空〜今日の夜、空いてねぇ?」

「…空いてない」

「うわっ、マジかよ」

話を聞く感じ、合コンに行くらしい。
わざわざ外出届を出してまで行く理由も、必要性も感じないし、そんなことを口に出せばまた、居ないところで陰口を叩かれるのだろう。

どちらにしろ、ここで断ったところで、後で裏で色々言うだろうし、それなら行きたくないから、行かない。

「─飲みもん、買ってくる。あと、ちょっと家に連絡するから、今日の昼はパス」

グダグダと文句を言う友人たち、

奴に群がるクラスメイト、

中には遊び相手もいて、本当に顔が良ければ誰でもいいんだな〜と思ったり。

(いや、別に好きでもなんでもない身体だけの関係だけど)

とりあえず、この場から去りたくて立ち上がる。

「えっ、凛空、どこ行くの〜?」

「飲みもん買いに行く」

「え、じゃあ、アタシも……」

「電話もするから、またね」

ついてこられるのはとても面倒だし、今はそういうことをする気分にすらなれないので、適当にあしらって、教室を後にする。

─さっきから、ポケットで鳴り続ける電話が本当にうるさくて仕方がない。

「─もしもし」

人目を避け、人気のない渡り廊下に出る。
そして、大量の不在着信から電話をかけた。

ワンコールもしないうちに出た相手は、泣きながら、春休みに帰省しなかったことや昨日、電話をしなかったことを『どうして』と言ってくる。

「ごめんね。忙しくて。……うん、大丈夫。元気だよ。うん。嫌いじゃないよ。……うん、わかってるよ。大丈夫だから。─うん、またね」

─電話の相手は、お母さん。

「はぁ……」

やっぱり、帰っておけばよかった。
あの時の欲を優先するから、こんな面倒くさいことになったんだ。

(……我ながら、馬鹿すぎる)

自動販売機の影で座り込んで、溜め息を零す。
襲いくる疲労感は、大切なものを削って。

「─天宮さん?」

「っ!?」

声がした方に顔を向けると、彼女がいた。

「なんで」

「えっと...、誉のお使い?」

そう言って、彼女はスマホを見せてくる。
どうやら、メッセージが送られてきたらしい。

「そうだ。昨日、言おうと思ったんだけど、誉と同室になったでしょう?迷惑をかけることもあると思うから、その時の緊急連絡先で私の連絡先を知っていて欲しいんだけど……そういうの、天宮さんは平気?」

「連絡先」

「うん。誉、騒がしいし、しつこいし、貴方の部屋を落ち着かない場所にすると思うの。その時は、私が懲らしめに行くから」

「懲らしめに」

「うん♪」

にっこりと笑った彼女は、何故か楽しそう。

「とりあえず、これあげるね」

そう言って、彼女は自動販売機で買った紙パックのミルクティーをくれた。

「……」

「それ、だよね?いつも飲んでるの。好きなのかなーって思ったんだけど……」

吃驚して思わず固まっていると、不安げな顔。

「……うん、好き」

思わず、そう返してしまった。
それは確かに普段から凛空がよく飲んでいるミルクティーだったけど、でも、彼女とはそんなに接点がないのに。

「良かった」

朗らかで、陽だまりのように暖かな。
─そうだ。だから、俺は。

スマホを取り出すと、彼女は笑った。
連絡先をスムーズに交換し終えて、

「じゃあ、またね」

凛空とは、反対方向に去っていく。
その背中を眺めながら、スマホの交換した画面を眺めていると。



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