全部、俺のものになるまで
気づけば18時を回り、オフィスにはもう私しか残っていなかった。

私は一人、書類の仕上げを終え、彼に報告する。

「社長、もう資料はできあがりました」

「……分かった」

そう答えた彼は、ゆっくりと私の前に歩み寄り──不意に、私の腕を掴んだ。

「社長……?」

「社長室に来れるか?」

低く、落ち着いた声。けれど、その指先は震えるほど熱を帯びている。

「……はい」

静かな返事を返したとき、心臓が高鳴っていた。

それが恐れなのか、期待なのか。自分でも、もう分からなかった。

社長室に着くと、彼が指差したのはソファーの上に散らばる書類だった。

「秘書が忙しくてできないんだよ。」

「分かりました。」

私はスーツの裾を整え、黙々と資料を棚に戻し始める。

書類の山を片づけながら、自分に言い聞かせていた。

これはただの雑務。ただの残業。ただの命令。
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