幼なじみの心は読めない、はずだったのに!

悶々 平田友紀 視点



 郁雄との曖昧な関係は続き、日に日にアプローチが激しさを増す。怒涛の畳み掛けが凄まじい。

「細谷って下手すりゃ犯罪者だよね~」
「ははは」

 否定が……できない! 一歩間違えたら犯罪者になりかねないだもんなぁ、郁雄の行動も言動も。異常なほどの執着具合というか、愛が重すぎるみたいな?

「ありゃ時期にストーカーになるっしょ。てかGPSとかつけられてんじゃな~い?」
「それはさすがに……」

 ないと言い切れないから恐ろしい。

 沙雪ちゃんとは互いの家へ遊びに行ったり、お出かけしたり、とても仲良くしてもらっている。私達が遊んでいる間、郁雄と琢矢くんも遊んでるっぽい。あまり想像がつかないけど。

「で? これからどうすんの~? 細谷のこと」

 沙雪ちゃんと琢矢くんは私と郁雄の曖昧な関係を把握済みで、それに対して否定も肯定もしてこないから正直気が楽ではある。

「……まだ幼なじみっていう感覚が抜けなくて、そもそも『彼女になってください』って言われたわけじゃないから幼なじみの延長線上にキスフレ? みたいな関係がプラスされちゃった……みたいな感じで、結局よくわかんない関係になってってる……みたいな?」

 なんてごにょごにょ喋る私に大きなため息を吐いた沙雪ちゃん。

「まったくアホだね~、細谷は。どーせ『友紀ちゃんは僕のもの~』いや『お前は俺のもんだろ』とか息巻いてんでしょ~。男ってほーんと言葉足らずな奴多くなぁい?」

 郁雄のモノマネをしながら校庭のベンチに腰かけた沙雪ちゃんの隣に苦笑いをしながら座る私。

 しばらく郁雄と私の話題が続いて、相変わらず目を合わせようとしない私にこれといって何も言ってこないし、気にも留めていない様子の沙雪ちゃんとの時間は私にとって安らぎで、とても居心地が良い。

 けれど、罪悪感というか後ろめたさみたいな感情は拭えない。私の能力、いつまでも秘密にしておくわけにはいかないって分かってるのに、拒絶されるのが怖くて言えない。

「あっ、ゆきゆきコンビはっけ~ん!」
「でたでた、生徒会副会長だっけあれ」
「はは、そうだね」

 おちゃらけ系男子の生徒会副会長が手を振りながらこっちへ向かって来ている。

「まぁた友紀に仕事押し付けんの~? 生徒会機能してなくなぁい?」
「わーお! 宇野和ちゃん辛辣ぅー!」
「どうしたの?」

 ちらりと副会長を見ると目が合ってしまった。

「(にしても顔面偏差値たっけぇな~! ゆきゆきコンビ~! 眼福眼福~! )」

 こんな人だけど、下心があったことは一度だってない。生粋のおちゃらけ男子ってだけ。

「会長が生徒会室にちょっと来てくれ~だってよ!」
「うちの友紀取んなしー」
「めんごめんご~! 平田ちゃんの代わりに俺が語らっちの相手すっからさぁ!」
「友紀以外いらんし~」
「(それにしても宇野和ちゃん、随分と丸くなったなぁ)」

 丸くなった? 性格……かな?

「沙雪ちゃんごめん、行ってくるね」
「うちも行こうか~? できることなんてないけど荷物持ちくらいならするよ~?」
「ううん、ありがとう」
「そっか、んじゃ」
「うん」


 沙雪ちゃん今ごろ副会長に捕まっちゃってるかな? いやぁ、沙雪ちゃんのことだから適当にあしらってるよね……あの子、すごく体調悪そうだけど大丈夫かな。

 前から少しふらつきながら歩いてくる女子。たしか隣のクラスだったような? 年上キラーとか呼ばれてるんだっけ。大人っぽいもんなぁ、雰囲気から何から何まで。なんて凝視しすぎちゃったのか目が合ってしまった。

「(どうしよう、今回まじでやばいかも。あいつストーカーじみてるし、何されるか分かんない……。こんなの誰にも言えないし、自業自得とか言われるのがオチだし、ほんとどうしよう……怖いんだけど)」

 どうしたんだろう、かなり顔色が悪い。

「なに」
「あ……いや……」
「(この子、世話好きのお人好しだっけ。目が合わない変わった子とか何とか一部で言われてる……。助けてくれないかな……なんてね)」
「あ、あの」
「なに、ガン見とかうざいんだけど」
「ご、ごめん」

 視線を逸らしてはみたものの、あんな心の声を聞いてしまった以上ほっとけないよ。

「あのさ」
「なによ」

 私は持っていたメモ帳とペンを取り出して電話番号を書き、ペリッと紙を破って手渡した。

「は? なにこれ」
「私の番号、困ったことがあったら連絡して」
「え?」
「ごめん、私急いでるから!」
「ちょ!?」

 無理やり紙を手渡して生徒会室へ向かう。

 私を必要としてくれるならきっと電話をくれるだろうし、必要じゃなかったらそれはそれでいい。一応郁雄にも相談しようかな? 何かあったら困るし……って……は?

「ひ、平田さん」
「友紀ちゃん……いや、これはっ」
「失礼しました」

 生徒会室のドアを閉めてがむしゃらに走った。

 私が悪かったのは認める。さっきの子のことが気がかりでぼうっとしながらノックもせず生徒会室のドア開けちゃったし。でもさ、幼なじみのラブシーンを強制的に目撃しちゃう私の身にもなってほしい。

「はぁっはぁっはぁっ、なんで……っ!」

 郁雄が── 生徒会長を押し倒してた。

 なんなの、私のこと好きだ愛してるとか散っ々言っておいて、キスばっかしてくるくせに……全部、嘘だったの?

「友紀ちゃん!」
「触んないで!」

 私の腕を掴んだ郁雄の手を振り向き様に振り払って、何に対して自分がこんなにも苛立っているのかも分からないまま、郁雄の目を見ることさえできない。

 郁雄は今、どんな顔してる?
 郁雄は今、何を考えてるの?

「友紀ちゃん、さっきのはっ」
「何も聞きたくない」
「ねえ、友紀ちゃんっ」
「聞きたくないって言ってるでしょ!!」

 周りは「(幼なじみ組が喧嘩なんて珍しいな)」とか「(これってチャンスだったり♡)」そんなことばかり。

「友紀ちゃん、聞いてよ」
「……しばらく話しかけないで」

 郁雄がこれ以上、私を深追いすることはなかった。
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