幼なじみの心は読めない、はずだったのに!
え、反応薄っ! 平田友紀 視点
郁雄と無事? に仲直りをして曖昧な関係、ただの幼なじみから恋人関係になった数日後、その報告と私の能力について沙雪ちゃんと琢矢くんに打ち明ける決意をした── けれど、いざとなると緊張して心臓が口から飛び出そう。
「やっぱりやめようかな、こんな能力のこと言われても怖がらせるだけだろうし……」
「まあ俺は別に言う必要ねえと思うけど~? だいたい俺達だけの秘密をあいつらに教える義理はねえ。気に入らん、癪に障る。とくに安曇はダメだな、あいつに知る権利は一切ねえ」
いやぁ、そういうことじゃなくて。
それから郁雄のネチネチぶつぶつが始まって、「なんで俺以外の男に話すの?」「友紀のこと一番分かってるの俺じゃん」「俺以外の奴と仲良くすんのやめて、他の奴見るのもやめて」「やっぱ邪魔だな、とくに安曇」「もう監禁してい?」「死ぬほど好き、愛してる」などなど激重感情をぶつけられまくる私、もはや激重感情で殴られていると言っても過言ではない。
「つーかさ、なんっで安曇ん家なわけ?」
「今日琢矢くんどうしても家から離れられないって言ってたから、じゃあ琢矢くん家でいいんじゃないかってなって」
「気に入らん、友紀が安曇と同じ空気を吸うのも安曇の陣地に入り込むのも」
「大袈裟な……」
隣を歩く郁雄をちらりと見上げると、ムッスーとして不機嫌そのものだった。こういうところが可愛かったりもする、ちょっと大変だけどね?
琢矢くん家へ行くとすでに沙雪ちゃんがいて、琢矢くんの弟や妹達が……たくさんいた。琢矢くん、6人兄妹なんだって。双子(男女)の小学6年生と小学4年の女の子、2年生の男の子、そして保育園児の女の子。この子達の面倒を見なくちゃいけないみたいで、家から離れられないということらしい……納得。
「悪いな、平田」
「ううん、忙しいのにごめんね? お邪魔します」
「僕には悪いって思わないのかなぁ?」
「おぉ、いたのか」
「ははっ、いるに決まってんでしょー」
それから安曇家の女子軍団から爆モテの郁雄は、猫かぶりで『仕方なく相手してやってるわ~』感が否めないけど、何だかんだああやって優しいところが好き。
弟くん達は琢矢くんに似て素朴な感じというか大人しい感じで、「自分の部屋行ってる」といなくなってしまった……私、嫌われてる?
「ははっ! あんのガキ共、友紀に照れてやがるな~」
「ええー、なにそれー、ちょっと聞き捨てならないなー」
沙雪ちゃんの言葉に即反応する郁雄に引き気味の私と琢矢くん。沙雪ちゃんは面白がってるし。
「ガキ相手に嫉妬かよ、みみっちい男だな」
「ははっ、安曇君も大して変わんないでしょ~」
「お前と一緒にすんじゃねえ」
「変わんない変わんな~い……ねえ、友紀ちゃん。僕いなくても平気ならこの子達ちょっと離すけど……どうする?」
郁雄の言っている意味が私にはすぐに分かった。さすがに能力のこと、この子達に聞かせるわけにもいかないし、郁雄は気を遣ってくれてるんだと思う。本当は郁雄が隣にいてくれたほうが心強いんだけど、甘えてばかりはいられない。
「うん、お願い」
「りょーかい」
郁雄は女子軍団を率いて少し離れたリビングでテレビをつけ、流行りのダンスを踊り始めた。音量も迷惑がかからない程度に上げてくれたから、これでそっちに私の声が届くことはない。
「なにあれ」
「知らねえ」
「トィックテックで今流行ってるらしいよ?」
「「ふーん」」
「あ、あの、私と郁雄……ちゃんと付き合い始めした」
「おお、そりゃめでた~い」
「そうか」
言わなきゃ、この2人にはちゃんと言わなきゃ。これからもずっと一緒にいたいから、親友だって思ってるから──。
うつ向いて、ぎゅっと手を握る。
「ごめん、2人とも」
「え? なにがぁ?」
「どうした」
「私……2人に隠し事してるの」
「え~? 何々~」
「それ、無理して言うことか?」
琢矢くんは郁雄に似たところがある。鋭いんだよね、人の感情を読み取るのに長けてるっていうか。きっと沙雪ちゃんもそうなんだろうけど、あまり重苦しい雰囲気にしないようにしてくれている感じで、この2人の優しさに触れれば触れるほど失うのが怖くなる。
お願い、どうか嫌わないで、怖がらないで、気持ち悪がらないで──。
「私……人の心が読めるの、聞こえちゃうの、その人の瞳を見ると……」
言ってしまった、もう戻れない、どうしよう。
「「へえ」」
え、反応薄っ! 想像とは違ったあっけらかんとした声に私は思わず顔を上げてしまった。すると2人はおふざけがすぎる作画崩壊(顔面崩壊)を起こしている。思っていた反応と違いすぎる現実に私まで作画崩壊を起こすという非常事態。
「あ、あのぉ……?」
「とくに驚きはないっていうかぁ、納得~てきな?」
「腑に落ちたな」
こんなことを打ち明けた後にこの2人の瞳を見ることなんてできなくて伏せ目でいると、ゲラゲラ笑い始めた沙雪ちゃんとそんな沙雪ちゃんの後頭部を容赦なく引っ叩く琢矢くん。
「笑うな、デリカシー皆無女」
「いったいなぁ! だって笑えんじゃん! いや、笑っちゃいけないんだろうけど、もっとこう『実は私、殺し屋なの』てきな雰囲気だったじゃん!?」
「アホかお前」
やっぱり失いたくない、ずっと一緒にいたい。こんな私を受け入れてなんて軽々しくは言えないけど、それでも私はこの2人の友達でありたい。
「あの!! 嫌な思いさせちゃうかもしれないけど、2人がよければこんな私とこれからも一緒にっ」
「友紀、うちら親友じゃん。そんっな堅っ苦しいのはやめやめ~。うちは友紀が超能力を持ってようが怪盗だろうが殺し屋だろうが、友達であることをやめるつもりはない」
「平田は平田だ、俺は気にしない」
胸がぐっと熱くなって涙が目に溢れる。溢れんばかりの涙をこらえて私は顔を上げた。視界は涙でぼやっとしているけど、私の前にはちゃんと沙雪ちゃんと琢矢くんがいる。
「ありがとう……っ、私の友達になってくれて……好き、大好きっ……」
「ははっ! 相思相愛じゃ~ん、うちも大好っ」
「いやぁ、聞き捨てならない言葉が聞こえちゃってね~ほーんと驚いたよ~。もぉダメだよ友紀ちゃーん。その言葉を僕以外に使うのは~」
「「「うわぁ、地獄耳」」」
「(友紀、帰ったらお仕置きね)」
郁雄の愛は、とにかく重すぎる──。【完】


