かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜
「桜帆さんは———」

名を呼ばれてなぜかギクリとしてしまう。

「兄のどこが良かったんですか?」

「逆ですよ、それは」
うろたえながらも返す。
「透さんほどの人がなぜわたしみたいな平凡な女と結婚したのかと、みんな不思議がってます」
面と向かって「玉の輿だね」と言われたことさえある。

「あの兄貴が判断を誤るわけないんですよ」
形のいいくちびるをくいと歪めた。
「たしかに桜帆さんは頭のいい女性だ」

「ご冗談でしょう。わたしは量子コンピューターがどういうものかも理解できてないんですよ?」

「勉強ができても頭の悪いやつはたくさんいます。本質的な部分での賢さという意味です。相手の気持ちを汲みとれる、人を不快にさせないふるまいが自然にできる。モラリティの高さ…そういったところ」

首を短く横にふった。
「買いかぶりです」

「あやうく惚れそうです」

彼の目は笑っていなかった。
< 54 / 123 >

この作品をシェア

pagetop