かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜
桜帆、と呼ぶ声に反射的に顔を上げると、いつのまにか透さんがすぐそばに立っていた。
「だいじょうぶか」と隣に腰をおろす。

「う…ん、ノーマンからメッセージが来てて…あの、起こしちゃってごめんね」
音をたてないように気をつけたつもりだったけど。

いや…とつぶやいて、彼にしては珍しくためらいをみせたのち、口を解いた。
「…そうやって人を心から思いやれる女性が妻でよかった。仕事以上に大切なものがあると、桜帆が教えてくれたんだ」

思いもよらない言葉だった。
「透さん、わたしそんな、何にもできて…」

もごもごしているわたしを、彼が優しくhugしてくれる。ええと、抱きしめてくれる、だな。
ちょこちょこ英単語が混じるようになってきた。

「だから今はきちんと休もう。俺が言っても説得力がないけど、睡眠は大事だ」
わたしの目をのぞきこんで言う。

「そうだね、うん」

彼と手を繋いで素直に寝室に戻る。わたしこそあなたが夫でよかった、と思いながら。
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