推しに告白(嘘)されまして。
「お待たせいたしました」
「「きゃああ!!悠里くぅん!!」」
テーブルに飲み物と軽食を笑顔で運んできた悠里くんに、失神しそうな勢いで女の子たちが叫ぶ。
その様子に私は心の中で思わず、うんうんと頷いた。
すごく、すごーく気持ちがよくわかる。
おそらく私もあの吸血鬼悠里くんに接客されたらああなる。
よし。推しが素晴らしい。
スポーツ科に100億点。
緩みそうな頬に改めて力を入れ、そんなことを思っていると、悠里くんとバチっと目が合った。
「柚子、来てくれたんだ」
表情を明るくさせ、こちらに向かってきた悠里くんに、心臓がズキューンっと撃ち抜かれる。
チラリと見える悠里くんの見慣れぬ牙が憎らしいほど、かっこいい。吸血鬼カフェを提案し、実行した全ての者に感謝を伝え、ハグをしたい。
「嬉しい。柚子、忙しそうだし、午前中は会えないかもって、思ってたから」
本当に嬉しそうに目を細める悠里くんに、私は胸が痛くなった。
悠里くんに会いに来たのではなく、鬼の風紀委員長として、仕事でここに来たとはとてもじゃないが伝えられない。悠里くんの喜びを裏切るようで言いづらい。
そんなことを思っていると、悠里くんは「柚子、こっち」と、流れるように私を席へと案内していた。
なされるがまま、帰ろうとしていたのに、席へと着席する。
「メニュー表はこれ。注文はどうする?」
「え、あ、えっと…」
悠里くんに笑顔でメニュー表を渡されて、私は固まった。
仕事でここに来た為、特に何が食べたいという希望が全くないのだ。
メニューを睨みつけて、何を頼もうか考えてみたが、本当に何も思い浮かばないので、私は悠里くんに助けを求めるように視線を向けた。
「…お、おすすめは何?」
「んー。おすすめかぁ」
私の質問に悠里くんは、少しだけ視線を伏せ、唇に軽く手を当て、考えてくれる。
いつもとは違う大人な雰囲気と、怪しくも色気のある牙に、そのちょっとした仕草にも、思わず胸がときめいてしまった。
推しの吸血鬼姿をこんなにも間近で見られるなんて。
私の人生は後世に語らねばならないほど素晴らしい。