推しに告白(嘘)されまして。




なかなかの完成度に感心している私に、吸血鬼カフェはどよめいた。



「て、鉄子が来たぞっ」

「きっと偵察だっ。気を引き締めろっ」

「そ、粗相はとんでもない減点対象だよ。みんな、ここが山場だからね」



顔面蒼白の者、息を呑む者、神妙な顔になる者。
様々なリアクションで、全員が小声でいろいろなことを口にしている。
一応こちらに聞こえないように配慮しているのだろうが、全て聞こえているので、思わず、苦笑いを浮かべそうになる。
だが、泣く子も黙る、鬼の風紀委員長、鉄子はそんなことでは笑わない。
少々、怖がってもらっていた方がこちらもいろいろとやりやすい。

なので、私はキッと顔に力を込めて、真剣な表情を作った。



「鉄子…あ、いや、鉄崎さん、お席はこちらに…」

「お気遣いなく。委員会の仕事で少し様子を見に来ただけだから」

「…っ。わ、わかりました」



私の答えに息を呑む女子生徒。
それから「やっぱり偵察だよーっ」と小声で他の生徒たちに速やかに報告に行っていた。

怯えながらも、緊張している様子の生徒たち、一人一人に視線を向ける。
全員、ビクビクしているが、接客も丁寧で、お客さんも楽しそうだ。
内装の気合いもさることながら、接客もなかなかいいらしい。
悪い点もないし、減点対象はないと言える。
むしろ、この雰囲気に加点をあげたいくらいだ。

もうこのくらいでいいか、と撤退しようとしていると、スタッフ専用にされている出入り口から、眩しい存在が現れた。

黒いシャツの首元で光る、シルバーと赤の丸いループタイ。
下は黒い制服のパンツだが、そこに黒い長めのマントを羽織ることによって、全体の印象が制服とは全然異なるものへと変わっている。
さらにはいつもは降ろされている綺麗な黒い前髪が、今日はかきあげられており、どこか大人っぽい雰囲気になっていた。

ーーー推しだ。
そこには私の推し、悠里くんがいた。



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