推しに告白(嘘)されまして。
幕が下ろされた後、私は、顔を真っ赤にしたまま動けないでいた。
…キスされた。
千晴にキスされた。
頭の中でただただその事実がぐるぐるぐるぐると回る。
「おーい、せんぱーい?」
「…」
「せ、ん、ぱ、い」
「…」
「もぉ、もう一回しようか?キス」
「…」
千晴が楽しそうに何か言っているが、よく理解できない。
今、何て言った?
もう一回しようか?キス?
「ダメダメダメ!何考えんの!」
やっと、意識が覚醒した私は、今まさにまたキスをしようとしていた千晴の口を両手で押さえた。
そんな私に「えぇ」と千晴は残念そうにしている。
全く油断も隙もない!
「というか!おかしいでしょう!?あんなの台本になかったじゃん!?」
「なかったね」
「なのに何で台本にないことするの!?」
怒る私に、千晴は変わらず楽しそうで、ますます腹が立ってくる。
飄々としている千晴には、全く反省の色がない。
そもそもここで反省するやつがあんなところでキスなんてしないだろうが。
千晴を鬼の形相で睨み続ける私に、千晴は何でもないように言った。
「だって、ああした方が盛り上がるじゃん。これで最優秀賞、確実でしょ?」
「そういう問題じゃない!」
一発どころか二発、三発と殴ってやりたい気持ちをぐっと抑えて、千晴をとにかく睨む。
「いい?千晴?世の中にはやっていいことと悪いことがあるの。今のキスはどう考えてもやってはいけないことだった。最優秀賞が取りたいからってやるべきことじゃなかった」
それから私は一旦深呼吸して、感情に任せて怒鳴ることをやめた。
冷静に問題を千晴に伝えることにした。