推しに告白(嘘)されまして。





「じゃあ、来年のクリスマスも俺と過ごそう?ね、柚子先輩」



脳内が悠里くんでいっぱいになったところで、突然、隣にいた千晴が、ガバッと私の肩に手を回し、抱き寄せる。それからねだるような視線を私に向けてきた。



「…いや」



回された腕に手を伸ばし、反射的にその手を払おうとする。
しかし、それを私は寸前のところでやめた。

今の千晴には私という頼れて甘えられる存在が必要なのだろう。
あの冷たい家庭環境に、婚約者問題。
千晴が心置きなく頼れるのは私だけで、その上で私は千晴に私を頼って欲しいとも思っている。
ここで千晴を拒否するのは違う。



「空いてたらね」



千晴の回されていた腕を外しながらも、私は困ったように笑いながらもそう言った。



「え」



そんな私の答えに、悠里くんが一瞬だけ、驚きの表情を浮かべる。
どうしたのだろうか、と心配にもなったが、すぐにその表情は元の優しい笑顔に戻った。



「悠里くん?」



それでもいつもとは違う気がする悠里くんが気になって、悠里くんの瞳を覗く。
すると、悠里くんは変わらぬ笑顔を私に向けた。



「…何でもないよ」



いつもと同じはずなのに、どこか違う悠里くん。
仄暗く少し元気がないように見えるのは、私の気のせいなのだろうか。

今の悠里くんにどうしても違和感を覚えたが、だからといって、どうすることもできず、私はそれ以上何も聞けなかった。


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