推しに告白(嘘)されまして。
「でも万が一もある。もし聞かれていたら、鉄子は怒っているだろうから、謝りに…」
「怒りはしないと思う。悲しむだろうけど」
陽平の言葉に、ポツリと俺の本音が漏れる。
柚子は決して怒らない。
けれど、間違いなく悲しむだろう。
それから残念だと寂しげに笑って、簡単に別れを切り出すのだ。
「…」
心の中で、すとん、と何かが落ちる。
ああ、わかってしまった。
柚子が俺へ向けていた気持ちの正体を。
柚子はいつも俺をまっすぐ見る。
その瞳には確かな愛がずっとあると思っていたが、あれは愛ではなかった。
ーーー憧れだ。
芸能人やインフルエンサーに向けるそれだ。
柚子が愛を持って、見つめる先には…。
そこまで考えて、一度、俺は首を横に振った。
知りたくなかった。知らないままでいたかった。
けれど、頭の中に、アイツを見つめる柚子の姿が嫌というほど鮮明に思い浮かぶ。
華守を見つめる柚子は俺と同じ目をしていた。
愛しさと相手にもそれを求める葛藤。
キラキラと綺麗なだけではないもの。
それが愛なのだ。
柚子は俺ではなく、アイツが好きなのだ。
だが、それでも俺は柚子を離したくなかった。
「ちょっと行ってくる」
俺はそれだけ言って、さっさと部室から出た。
「なぁ、悠里、いつもと雰囲気違くね?」
「大丈夫か、あれ?」
「それだけ切実ってことだろ?」
大変な状況にしては冷静な態度で消えた俺に、部員たちは心配の色を浮かべた。
だが、それを俺は知る由もなかった。