推しに告白(嘘)されまして。



*****



柚子の手を引きやって来たのは、人気のない空き教室だった。
ここなら誰もいないので、落ち着いて話ができるだろう。

窓の外から柔らかな夕日がこの教室に射し込む。
その光を浴びてオレンジに染まる柚子はなんて綺麗なのだろうか。

戸惑いの表情を浮かべる柚子に、俺はついそんなことを思った。



「慎に監督からの封筒、渡したんだよね?バスケ部の部室の前で」

「うん」



ゆっくりと問いかけた俺に、柚子が不思議そうに頷く。
その答えに俺の心臓は静かに加速し始めた。

柚子はやはりあの話を聞いていたのではないだろうか。

冷や汗が背中を伝い、気持ち悪い。
緊張で喉がカラカラに乾いて、息が詰まる。

しかし、このまま黙っているわけにもいかないので、俺はごくんと唾を飲んで、意を決したように口を開いた。



「……俺たちの話、聞こえてた?」

「え?」



俺の問いかけに、柚子が目を丸くする。
それからキョトンとした顔でこちらを見た。



「話ってなんの?」



まるで何も知らない様子の柚子だが、俺にはそれが嘘であるとわかる。

あまりにも完璧で隙のない、一見、嘘をついているようには見えない柚子。
しかし、よく見れば、作られた完璧な表現の中で、柚子は目を泳がせていた。



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