推しに告白(嘘)されまして。
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柚子の手を引きやって来たのは、人気のない空き教室だった。
ここなら誰もいないので、落ち着いて話ができるだろう。
窓の外から柔らかな夕日がこの教室に射し込む。
その光を浴びてオレンジに染まる柚子はなんて綺麗なのだろうか。
戸惑いの表情を浮かべる柚子に、俺はついそんなことを思った。
「慎に監督からの封筒、渡したんだよね?バスケ部の部室の前で」
「うん」
ゆっくりと問いかけた俺に、柚子が不思議そうに頷く。
その答えに俺の心臓は静かに加速し始めた。
柚子はやはりあの話を聞いていたのではないだろうか。
冷や汗が背中を伝い、気持ち悪い。
緊張で喉がカラカラに乾いて、息が詰まる。
しかし、このまま黙っているわけにもいかないので、俺はごくんと唾を飲んで、意を決したように口を開いた。
「……俺たちの話、聞こえてた?」
「え?」
俺の問いかけに、柚子が目を丸くする。
それからキョトンとした顔でこちらを見た。
「話ってなんの?」
まるで何も知らない様子の柚子だが、俺にはそれが嘘であるとわかる。
あまりにも完璧で隙のない、一見、嘘をついているようには見えない柚子。
しかし、よく見れば、作られた完璧な表現の中で、柚子は目を泳がせていた。