推しに告白(嘘)されまして。
5.最初のチョコ
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優雅で楽しい、そしてほんの少し恥ずかしい、そんなひと時を過ごした後。
時間になったので、私たちは厨房へと戻ってきていた。
いよいよ、生チョコタルト作り再開だ。
次の工程は寝かせていた生地をタルトの形にする、というものだった。
ちなみに千晴はまたあの座り心地の良さそうな椅子に座って、こちらをどこか楽しげに見つめている。
まるでどこぞの王族のようだ。
「この生地を伸ばすのよ、慎重にね」
「う、うん」
千夏ちゃんに見守れながらも、木の板…いや、千夏ちゃん曰く、ペストリーボードと呼ばれるものの上に置かれた生地をめん棒でゆっくりと円になるように伸ばしていく。
最初は薄くなりすぎることを恐れて、おそるおそるめん棒を転がしていたが、千夏ちゃんに「少しずつ力を入れて。少しずつよ」と言われたので、指示通りに力をそっと加えていった。
「…っ」
そして少し歪だが、直径15センチほどの円がようやく一つ完成し、私はやっと息を吐いた。
緊張で今この時まで息をすることを忘れていた。
「あとはこの生地を型に入れて、はみ出ている生地をこのパレットで削ぎ落とすの」
いつの間にか千夏ちゃんも作っていたらしい円の生地を使って、千夏ちゃんが手際よく次の作業内容を教えてくれる。
私はそれを一瞬たりとも見逃さぬように見て、忘れぬうちに自分の生地を睨んだ。
「お義姉様、ポイントは優しく、よ」
「うん…!」
千夏ちゃんの真剣な声に、私は同じく真剣な声で返す。
それから震える指先に力を込めて、何とか続きの工程に入った。
こうして私たちは、それぞれ三つずつ、タルト生地を作った。
そして形になったタルト生地はまた冷蔵庫で寝かされた。
その後、やっとオーブンで焼き、次にその焼けたタルトに、チョコと生クリームを混ぜたものを流し入れた。
この工程を経て、やっと、生チョコタルトの土台が完成した。
作業の途中、板チョコを刻む段階で、板チョコを木っ端微塵にしてしまうという場面もあったが、まな板の上でのことだったので、一応は大丈夫だった。
千夏ちゃんに絶句され、千晴に大爆笑されたが。
こうして完成した生チョコタルトの土台。
あとは、いよいよ最後の仕上げであるトッピングだ。