推しに告白(嘘)されまして。
「…わ、わかった。弾くよ」
2人に力なく頷いて、ピアノの元へと向かう。
それから千晴に場所を譲ってもらい、私はピアノと向き合った。
正直、私が覚えていて楽譜なしで弾ける曲なんて、一曲しかない。
「…ふぅ」
両手をゆっくりと鍵盤に乗せ、私は一息つく。
そして、覚えている通りに、指を動かし始めた。
リズムよく私から奏でられ始めた曲は、〝猫ふんじゃった〟だ。
あの素晴らしすぎる演奏の後に、大変恥ずかしいが、私は無心で指を動かした。
その間、千晴と千夏ちゃんは何も言わず、ただただ私の演奏を聴いてくれていた。
…すごく変な空気になっているのはきっと気のせいではないはずだ。
やっと演奏を終えた私に、まず口を開いたのは千夏ちゃんだった。
「…庶民って、そこまでしか習えないのね。何もないからこその伸び代があるのね」
神妙な顔つきで、興味深そうに呟いた千夏ちゃんに、恥ずかしさがピークに達する。
いっそのこと、関心を持つのではなく、笑って欲しかった。「庶民のピアノは可愛らしいですわね」と皮肉を込めて言ってもらいたかった。
そう言われても仕方のない演奏だったし、そうだろうとしか思えないのに。
「先輩やっぱかわいすぎ。反則じゃん。弾き語りしてもいいんじゃない?てかもう一回して?今度は動画撮るから」
真剣な千夏ちゃんとは違い、千晴は何とも愉快そうだ。
全く違う2人のリアクションに、私はわなわなと恥ずかしさや悔しさで震えた。
2人とも違うベクトルでとても嫌なリアクションだ。