推しに告白(嘘)されまして。




「そういえば、千夏ちゃんは今日作ったやつ誰にあげるの?」

「あら、そういえば言ってなかったわね。お父様とお兄様とそれから婚約者によ」

「へぇ…。お父様とお兄様と婚約者にね…。ん?」



千夏ちゃんの淡々とした答えに、一瞬、私は固まる。

お父様にあげる、わかる。
お兄様にあげる、わかる。
婚約者にあげる…?
婚約者?



「え、え!?千夏ちゃん中学生だよね!?こ、婚約者がい、いるの!?え!?」

「ええ。もちろん。華守の娘だもの」



何でもないことのように答えた千夏ちゃんに、私は大きく目を見開き、思わず千夏ちゃんを凝視した。
だが、そんな私とは違い、千夏ちゃんは平然としており、手際よく、箱にリボンを巻き付けていく。

その姿に私は思った。
婚約者がいるということは、千夏ちゃんにとっては、当たり前で、普通なのだ、と。

お金持ちの世界、すごすぎる。
庶民には全く理解できない世界だ。

未知の世界に衝撃で固まっていると、そんな私に気がついた千夏ちゃんは作業を続けながら言った。



「華守と繋がりたいのよ、みんなね。つい最近まで婚約者がいなかったお兄様の方が異例なのよ?」

「…は、はぁ」



千夏ちゃんの説明に、つい間の抜けた返事をしてしまう。
千夏ちゃんのお兄様、つまり千晴の婚約者は千夏ちゃんにとっては私なのだろうが、もうそこにいちいちツッコむのはやめた。



「それで?アナタは一体誰にあげるのかしら?沢村悠里と、残りのものは誰に?」



全ての箱のラッピングを終えた千夏ちゃんが、興味深そうに私を見る。
そんな千夏ちゃんに私は作業を続けながら、淡々と口を開いた。



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