推しに告白(嘘)されまして。
6.波乱の練習試合は一筋縄ではいかない。
1.王子の悩み事 side悠里
side悠里
放課後。
床を蹴る音、ボールの弾む音、それから部員たちの声が、体育館内に響く。
そんな熱気の中、俺は今日も部活に励んでいた。
テスト週間が終わり、1週間が経った。
鉄崎さんと一緒に勉強したおかげで、テスト結果は過去最高で、改めて鉄崎さんの凄さを思い知った。
そして、俺と同じように、鉄崎さんのテスト結果もよかったようで、鉄崎さんは嬉しそうに「沢村くんのおかげだよ」と笑いながら報告してくれた。
…あの笑顔、可愛かったな。
綺麗な黒髪から覗く、柔らかく細められた大きな瞳。
緩む口元に少し紅潮した頬。
嬉しそうに笑う鉄崎さんを見ると、なぜか心が暖かくなった。
風紀委員長としてみんなから恐れられ、鉄子、と呼ばれている鉄崎さんだが、笑うと花のように可愛い。
一緒にいればいるほど、知らなかった鉄崎さんの新たな一面を知ることができて、俺は嬉しかった。
少しずつ、鉄崎さんの特別になれている気がして。
けれど、鉄崎さんにとっての〝特別〟は俺だけではなかった。
ーーー華守千晴。
彼も鉄崎さんにとってきっと特別な存在だ。
その素行の悪さから、学校中の生徒から恐れられ、距離を置かれ、大人である先生たちからも、どこか特別扱いされている、この学校では異質な生徒。
そんな彼のことを、鉄崎さんはいつも彼のたった1人の友人として、気にかけており、彼に世話を焼いていた。
鉄崎さんは誰にでも平等で優しい人だから。
わかっている。
そこが鉄崎さんの良さでもある、と。
だからいいな、と思える。
ーーーけれど。
鉄崎さんはアイツのことを、千晴、と名前で呼ぶのだ。
彼氏である俺のことは、沢村くん、と名字で呼ぶのに。
しかもホーム画面もアイツとのツーショットで…。
これではどちらが鉄崎さんの彼氏なのかわからない。
現状にモヤモヤしていると、俺にパスが回された。
目の前には、2人のディフェンスが立ちはだかる。
ああ、こんなこと今考えることではないのに。
1人にフェイントをかけて、抜き去り、もう1人を引き連れて、そのままシュート体勢に入る。
いつものように軽く放ったボールは弧を描いて…。
カンッとリングに当たってしまった。
シュートが外れてしまったのだ。
いつもならほぼ入るシュートだというに。
その後も同じように何度もシュートチャンスはあったが、どのシュートもゴールネットを揺らすことはなかった。