野いちご源氏物語 三一 真木柱(まきばしら)
右大将様は六条の院でご正妻の家出をお聞きになった。
<若い夫婦のようなまねをなさるではないか。妻自身はそのように思い切ったことをなさる人ではないのに、父宮が軽率なご指示をなさったのだろう>
お子たちのことも世間体も気になるから、放っておくことはおできにならない。
「屋敷の方で少し面倒なことが起きたようです。妻が実家に戻りまして、かえって気楽な気もいたしますが、私としてはあなたが私の屋敷にお移りになっても、一緒に暮らせる人だと思っていたのです。屋敷の片隅でおとなしくしている人ですから。おそらく父宮が無理に連れていかれたのでしょう。世間が私を悪く言うでしょうから、少し話をしてまいります」
出かけていく右大将様のお姿はとてもご立派よ。
ご自分のお屋敷と違って、こちらでは婿君に最高のお着物をご用意なさっているのだもの。
<お似合いのご夫婦でいらっしゃる>
女房たちはそう思っているけれど、尚侍様はご正妻とのいざこざを聞いてますます嫌な気がなさる。
右大将様をお見送りもなさらない。
式部卿の宮様のお屋敷へ上がる前に、ご自分のお屋敷にお戻りになった。
女房が出てきて、ご正妻とお子たちがどんなふうに出ていかれたかお聞かせする。
姫君のお気の毒だったご様子を聞くと、涙を我慢できずにお泣きになる。
<病気のあの人をずっと大切にしてきたではないか。ふつうの男ならとっくに見捨てていただろうに。いや、あの人のことはもうよい。どこにいらしてもあのままだろう。問題は幼い子どもたちだ。どう世話なさるおつもりなのか>
ため息をついてふと柱をご覧になると、姫君のお書きになった紙が差しこまれている。
幼いご筆跡がいじらしくて恋しくおなりになる。
乗り物のなかで涙をぬぐいつつ宮邸へご到着なさったけれど、ご正妻も宮様もお会いになるはずがない。
右大将様のご訪問をお聞きになった宮様は、ご長女におっしゃる。
「相手にしてはならぬ。ちょっとやそっとの浮気ではないのだ。年甲斐もなく恋に浮かれていると去年から噂になっていた。反省して、またそなたを大切にしようという気などあるはずがない。そなたの病気がひどくなるだけだ」
ご正妻が出ていらっしゃらないので、右大将様は伝言をお願いなさる。
「ご実家へ戻られたのは幼いやり方のような気がいたします。かわいい子どもたちもいるのだから、そのように軽率なことはなさらないだろうと油断しておりました。後悔してもどうしようもありませんが、今回は大目に見てお許しくださって、本当に世間も承知しないほど私が悪いとなったときに、あらためてご実家に戻るという最後の手段をお取りくださいませんか」
言い訳なのかお願いなのか、しどろもどろにおっしゃる。
せめて姫君に会いたいとお思いになるけれど、宮様はお許しにならない。
男の子ふたりだけをお出しになる。
十歳のご長男は見習いとして内裏にも上がっていらっしゃるの。
かわいらしいお子で、評判もよく、どんどん賢くなっていかれる。
ご次男は八歳で、おっとりとして姫君によく似ていらっしゃる。
「そなたを見ていると姫君を思い出すよ」
右大将様はご次男を撫でてお泣きになる。
宮様とお話がしたいと申しこまれるけれど、
「体調が悪いので」
とそっけなく断られて、気まずい思いで宮邸からご退出なさった。
<若い夫婦のようなまねをなさるではないか。妻自身はそのように思い切ったことをなさる人ではないのに、父宮が軽率なご指示をなさったのだろう>
お子たちのことも世間体も気になるから、放っておくことはおできにならない。
「屋敷の方で少し面倒なことが起きたようです。妻が実家に戻りまして、かえって気楽な気もいたしますが、私としてはあなたが私の屋敷にお移りになっても、一緒に暮らせる人だと思っていたのです。屋敷の片隅でおとなしくしている人ですから。おそらく父宮が無理に連れていかれたのでしょう。世間が私を悪く言うでしょうから、少し話をしてまいります」
出かけていく右大将様のお姿はとてもご立派よ。
ご自分のお屋敷と違って、こちらでは婿君に最高のお着物をご用意なさっているのだもの。
<お似合いのご夫婦でいらっしゃる>
女房たちはそう思っているけれど、尚侍様はご正妻とのいざこざを聞いてますます嫌な気がなさる。
右大将様をお見送りもなさらない。
式部卿の宮様のお屋敷へ上がる前に、ご自分のお屋敷にお戻りになった。
女房が出てきて、ご正妻とお子たちがどんなふうに出ていかれたかお聞かせする。
姫君のお気の毒だったご様子を聞くと、涙を我慢できずにお泣きになる。
<病気のあの人をずっと大切にしてきたではないか。ふつうの男ならとっくに見捨てていただろうに。いや、あの人のことはもうよい。どこにいらしてもあのままだろう。問題は幼い子どもたちだ。どう世話なさるおつもりなのか>
ため息をついてふと柱をご覧になると、姫君のお書きになった紙が差しこまれている。
幼いご筆跡がいじらしくて恋しくおなりになる。
乗り物のなかで涙をぬぐいつつ宮邸へご到着なさったけれど、ご正妻も宮様もお会いになるはずがない。
右大将様のご訪問をお聞きになった宮様は、ご長女におっしゃる。
「相手にしてはならぬ。ちょっとやそっとの浮気ではないのだ。年甲斐もなく恋に浮かれていると去年から噂になっていた。反省して、またそなたを大切にしようという気などあるはずがない。そなたの病気がひどくなるだけだ」
ご正妻が出ていらっしゃらないので、右大将様は伝言をお願いなさる。
「ご実家へ戻られたのは幼いやり方のような気がいたします。かわいい子どもたちもいるのだから、そのように軽率なことはなさらないだろうと油断しておりました。後悔してもどうしようもありませんが、今回は大目に見てお許しくださって、本当に世間も承知しないほど私が悪いとなったときに、あらためてご実家に戻るという最後の手段をお取りくださいませんか」
言い訳なのかお願いなのか、しどろもどろにおっしゃる。
せめて姫君に会いたいとお思いになるけれど、宮様はお許しにならない。
男の子ふたりだけをお出しになる。
十歳のご長男は見習いとして内裏にも上がっていらっしゃるの。
かわいらしいお子で、評判もよく、どんどん賢くなっていかれる。
ご次男は八歳で、おっとりとして姫君によく似ていらっしゃる。
「そなたを見ていると姫君を思い出すよ」
右大将様はご次男を撫でてお泣きになる。
宮様とお話がしたいと申しこまれるけれど、
「体調が悪いので」
とそっけなく断られて、気まずい思いで宮邸からご退出なさった。