一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
お義父さんは懐かしむように目を細める。
「君の両親が駆け落ちする時には、僕にふたりが会いにきてね。その時に三人で『それぞれの子供が生まれたら鳥にちなんだ名前にしよう』って決めたんだ。菜々美が鳥が好きで、インコや文鳥を飼っていたから。男ふたりで世話をさせられたり、菜々美の誕生日に鳥のモチーフの何かを贈ったりした思い出が多くてね。三人で会える機会も当分ないとわかっていたから、未来に繋がりそうなものを残そうとした。だから、君が『つぐみ』という名前で嬉しかったよ。優太はもういないけれど、あの約束が形になっていて」
そのまま目を伏せた。瞼の裏に映っている私の両親との思い出を見ているようだった。
お義父さんはゆっくりと目を開けるとこちらに笑う。
「ということだから、ふたりは全然血繋がっていないよ。安心して」
「よ、よかった……」
「でも、出張後すぐに乗り込んでくるとは。僕は明日あたりに冷静に詰めてくるかと。父さんの予想が当たりましたね」
「『鷹士はああ見えて熱い奴だからすぐに乗り込んでくる。だからホテルで待つ』といって。コースも人数分頼んで。来なかったらどうするんだってさっきまで話していたんだ」
全員の視線が会長に注がれる。会長は威厳ある顔を渋面に変えて、視線から逃れるように目を閉じた。
「さ、席に着きなさい。それに、もうそろそろ来る頃だ」
来る?
私が首を傾げたら、後ろの襖が開いた。振り向けば、すごく見知った顔があって目を丸くする。
「お、お母さん!?」
「あら、話終わっちゃってる?」
驚く私を見てから、母は部屋の中にいるお義父さんたちに目を向ける。お義父さんはふふふと茶目っ気のある笑顔を浮かべた。
「菜々美には、ふたりにドッキリするからよかったら来ないかって誘ったんだ」
「修羅場のところに私が乗り込む予定だったのに、遅れちゃったわね」
「え、え?ちょっと待って。私が鷹士さんと結婚したこと知ってるの?」
「うん、入籍した直後から知ってる」
「そんな前から!?」
思わず素っ頓狂な声が腹から出て、我に返り口を塞ぐ。いくら個室とはいえレストラン内だ。私は咳払いをして声を抑えながらも改めて訊く。
「ちょっとどういうこと?」
「だって、この人わざわざ私に挨拶に来たもの」
そう言って指差した先には鷹士さん。彼は気まずそうに視線を横に流した。
「一応娘さんを貰い受けるわけだから、挨拶はしないとと思って。訪ねて早々に怒られたが」
「そりゃそうよ。私は政略結婚をつぐみがさせられるなんて知らなかったし、それが私の治療のためって言うじゃない?今すぐそんなもの破棄させるって、うちの父に言いに行こうとしたら、鷹士くんに止められて。つぐみがどんな思いで受けたかわからないのかって。私を助けたい気持ちはわかるけど、それでも腹の虫が治まらなかったら今度はなんて言ったと思う?」
「え……なんだろ」
見当がつかずに彼のほうへ視線を向けると、再び青い瞳が逃げる。彼の気まずそうな表情に母はふっと笑った。
「君の両親が駆け落ちする時には、僕にふたりが会いにきてね。その時に三人で『それぞれの子供が生まれたら鳥にちなんだ名前にしよう』って決めたんだ。菜々美が鳥が好きで、インコや文鳥を飼っていたから。男ふたりで世話をさせられたり、菜々美の誕生日に鳥のモチーフの何かを贈ったりした思い出が多くてね。三人で会える機会も当分ないとわかっていたから、未来に繋がりそうなものを残そうとした。だから、君が『つぐみ』という名前で嬉しかったよ。優太はもういないけれど、あの約束が形になっていて」
そのまま目を伏せた。瞼の裏に映っている私の両親との思い出を見ているようだった。
お義父さんはゆっくりと目を開けるとこちらに笑う。
「ということだから、ふたりは全然血繋がっていないよ。安心して」
「よ、よかった……」
「でも、出張後すぐに乗り込んでくるとは。僕は明日あたりに冷静に詰めてくるかと。父さんの予想が当たりましたね」
「『鷹士はああ見えて熱い奴だからすぐに乗り込んでくる。だからホテルで待つ』といって。コースも人数分頼んで。来なかったらどうするんだってさっきまで話していたんだ」
全員の視線が会長に注がれる。会長は威厳ある顔を渋面に変えて、視線から逃れるように目を閉じた。
「さ、席に着きなさい。それに、もうそろそろ来る頃だ」
来る?
私が首を傾げたら、後ろの襖が開いた。振り向けば、すごく見知った顔があって目を丸くする。
「お、お母さん!?」
「あら、話終わっちゃってる?」
驚く私を見てから、母は部屋の中にいるお義父さんたちに目を向ける。お義父さんはふふふと茶目っ気のある笑顔を浮かべた。
「菜々美には、ふたりにドッキリするからよかったら来ないかって誘ったんだ」
「修羅場のところに私が乗り込む予定だったのに、遅れちゃったわね」
「え、え?ちょっと待って。私が鷹士さんと結婚したこと知ってるの?」
「うん、入籍した直後から知ってる」
「そんな前から!?」
思わず素っ頓狂な声が腹から出て、我に返り口を塞ぐ。いくら個室とはいえレストラン内だ。私は咳払いをして声を抑えながらも改めて訊く。
「ちょっとどういうこと?」
「だって、この人わざわざ私に挨拶に来たもの」
そう言って指差した先には鷹士さん。彼は気まずそうに視線を横に流した。
「一応娘さんを貰い受けるわけだから、挨拶はしないとと思って。訪ねて早々に怒られたが」
「そりゃそうよ。私は政略結婚をつぐみがさせられるなんて知らなかったし、それが私の治療のためって言うじゃない?今すぐそんなもの破棄させるって、うちの父に言いに行こうとしたら、鷹士くんに止められて。つぐみがどんな思いで受けたかわからないのかって。私を助けたい気持ちはわかるけど、それでも腹の虫が治まらなかったら今度はなんて言ったと思う?」
「え……なんだろ」
見当がつかずに彼のほうへ視線を向けると、再び青い瞳が逃げる。彼の気まずそうな表情に母はふっと笑った。