一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「『今まで散々つぐみさんに我慢させてきたくせに、こういう時だけいい親ぶるな』って言ったの。本当に今まで苦労させてこなかったのか。片親で育てることはすごいことだけど、自分の意地で誰にも頼らず暮らして、寂しい思いをさせていなかったのかって。それには、さすがの私も反論できなかった」
痛いところを突かれたというふうに苦笑を浮かべると、母は私へと視線を戻す。たれ目がちで丸みを帯びた顔の私とは逆のスッと横に線を引いた双眸とはっきりとした顔立ちの母は、身長も高くいつも溌溂と肩で風を切って歩いているような、豪胆さもあって大きな存在だった。それが私よりも小さく感じた。昔のままだと思っていた母が年を取っていることが目に焼き付く。
「何度か藤原家のほうから援助の申し入れはあったの。それこそ、優太が亡くなってからね。女一人では大変だろうって。今考えたら単純な心配だったと思う。でも、その時私は断った。どれだけ貧しくても頼るものかって家出した手間ね。つぐみのことを思えば受けるべきだったのに。ごめんね」
「いや、それは……」
大丈夫。
と言おうとした。でも、喉に引っかかって出なかった。当時の私が感じた感情がせり上がってきて、その言葉を飲み込んだ。
「寂しかった」
私のために働いてくれている母には言えなかったその声が吐息と一緒に漏れ出る。
「ごめんね」
もう一度母が言った。眦に涙を滲ませて私の手を取る。日に焼けた血管が浮いた手だ。お嬢様だった頃の名残もないその手にぽたりと私から流れた涙が一滴落ちた。寂しいことばかりだった。諦めてきたことも多い。でも、握り締めた手から伝わる温度が今ここにあるだけでよかった。
「……私こそ勝手なことしてごめんなさい」
「それだけど、鷹士くんは私に言ったのよ。『一年で別れる。ちゃんとつぐみさんに不自由ないよう資産も渡す。もちろん、手は出さない』って。そこまで言われたら、反対しきれなくて。結局、つぐみの意思に任せることにした。私が止めてもあなたは内緒で夜も働いて治療受けさせようとするだろうし。それなら、鷹士くんのほうが安心だからね。まぁ、あなたは私にうまく結婚のこと隠せていると思ってたでしょうけど、入院手続きで案外バレるわよ。名字や住所とかね」
「う……」
痛いところを突かれたというふうに苦笑を浮かべると、母は私へと視線を戻す。たれ目がちで丸みを帯びた顔の私とは逆のスッと横に線を引いた双眸とはっきりとした顔立ちの母は、身長も高くいつも溌溂と肩で風を切って歩いているような、豪胆さもあって大きな存在だった。それが私よりも小さく感じた。昔のままだと思っていた母が年を取っていることが目に焼き付く。
「何度か藤原家のほうから援助の申し入れはあったの。それこそ、優太が亡くなってからね。女一人では大変だろうって。今考えたら単純な心配だったと思う。でも、その時私は断った。どれだけ貧しくても頼るものかって家出した手間ね。つぐみのことを思えば受けるべきだったのに。ごめんね」
「いや、それは……」
大丈夫。
と言おうとした。でも、喉に引っかかって出なかった。当時の私が感じた感情がせり上がってきて、その言葉を飲み込んだ。
「寂しかった」
私のために働いてくれている母には言えなかったその声が吐息と一緒に漏れ出る。
「ごめんね」
もう一度母が言った。眦に涙を滲ませて私の手を取る。日に焼けた血管が浮いた手だ。お嬢様だった頃の名残もないその手にぽたりと私から流れた涙が一滴落ちた。寂しいことばかりだった。諦めてきたことも多い。でも、握り締めた手から伝わる温度が今ここにあるだけでよかった。
「……私こそ勝手なことしてごめんなさい」
「それだけど、鷹士くんは私に言ったのよ。『一年で別れる。ちゃんとつぐみさんに不自由ないよう資産も渡す。もちろん、手は出さない』って。そこまで言われたら、反対しきれなくて。結局、つぐみの意思に任せることにした。私が止めてもあなたは内緒で夜も働いて治療受けさせようとするだろうし。それなら、鷹士くんのほうが安心だからね。まぁ、あなたは私にうまく結婚のこと隠せていると思ってたでしょうけど、入院手続きで案外バレるわよ。名字や住所とかね」
「う……」