一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
***
「はぁ、疲れた」
私たちはリビングで同時にため息を重ねる。あれから会食というより、宴会みたいな空気になりとても賑わった。
会長とお義父さんは酒をどんどん飲み、それに続こうとする病み上がりの母を止めるのに大変だったけど、みんなが私たちのことを祝福してくれているのが伝わってきて、嬉しかった。ただそれが三時間強続くと止める側の私と鷹士さんも疲労困憊になってくる。
ようやくお開きになったのが夜の十時過ぎ。
そこから母を家まで送って今帰ってきた。運転をしていた鷹士さんは出張帰りだったのもあり、私より疲れているはずだ。全部私が悪い。
「ごめん。私の早とちりで話をややこしくて」
「いや、あれは会長が悪い。明らかに揉めさせるための誘導だ。こうなるよう仕組んだんだから、たちが悪すぎる」
ふんっと怒りを吐き出しながら、彼はソファに座る。確かに何もなければ私たちは穏便に結ばれていただろうけど、今日のことがあって会長と鷹士さんの確執もなくなった。そう思えば、散々悩んだけど結果的によかったと思える。
私も彼の隣に腰を下ろす。背凭れに身を預けたら大きく息が漏れた。
「よかった」
さっきの疲労から来るものではなく、安堵のため息。
血が繋がっていても鷹士さんは私を選ぶと言ってくれたけど、現実でそうであるのとないのとでは全然違う。重圧から解放されたおかげで身が軽く感じて、心地よい。気が抜けたら今度は睡魔がじわじわと侵食してくる。うつらうつらと閉じかけた瞼の先で、壁掛け時計の短針と長針が天辺を回っていることに気づくと一気に眠気が飛んだ。
「鷹士さん!」
「なんだ?」
「お誕生日おめでとう」
十二月二十四日。鷹士さんの二十七歳の誕生日だ。
私の言葉を受けて彼は特に感慨もなく「あ、そうだった」というふうに時計を見遣る。すっかり頭の中から消えていたようだ。
「誕生日プレゼントは用意したんだけど、夜に渡すね。ケーキも予約してあるから」
サプライズじゃなくなるけど、一番に彼におめでとうを言いたかった。出張で当日の夜にしか会えないと思っていたから、こうして言えたことが嬉しく頬が上がる。
プレゼントはカシミヤのマフラーにした。ちゃんとしたブランドのものだ。ケーキはクリスマスシーズンでどこのショップも慌ただしいから、予め早めにホテルの中のパティスリーに予約しておいた。美蘭さん曰く、そこのケーキを小さい頃鷹士さんもよく食べていたようだとのこと。
「ありがとう」と微笑みながら、鷹士さんは私の肩に腕を回す。逞しい腕により引き寄せられて彼の肩に凭れかかる形になると、ドキドキして血の巡りが早くなるのに筋肉は固まって石みたいになる。
向かい側に鏡がなくてよかった。きっと、めちゃくちゃ赤い顔をしているのを鷹士さんに見られてしまう。
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