一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
「平坦な人生なんてないと俺は思っている。どんな人間であろうと、いい時もあれば悪い時もある。最後には平等に死が来る」
「うん」
「だから、限られた時間のすべてであなたがつらい時は支えるし、いいことがあれば共に喜んでいきたい。一日一日、大切に一緒に生きよう」
慈しむように双眼を細める。そこにある柔和な光に胸があたたかくなって、同時に泣きそうになる。油断すれば嗚咽が上がりそうになるのを堪えて、震える声で応えた。
「私も……嬉しい時も悲しい時も鷹士さんの傍にいる。絶対、ひとりにしないから」
小さい頃から見た目だけで蔑まれて、大切な母親からも離れなくてはならなくなって。ずっと、孤独と闘ってきた背中を抱き締める。
「どんな時でも私がいるから」
どれだけ傷ついてきたか、計り知れない。でも、傷が少しでも癒えるように背を擦ると、彼は小さく息を呑んだ。その直後、私を抱きしめ返してくる。ぎゅうっと音が出そうなほど強く。少し苦しいけど、私の肩に顔を埋めて息を殺すその様が泣くのを我慢していた小さなおう君のようで。私はただただ彼の背を撫でた。
数秒後、腕の力が緩められる。顔を上げた彼はゆっくりと私の顎に手をかけて視線を合わせた。
「愛してる。つぐみ」
「私も愛してる」
愛の言葉を交わしたら、自ずとお互い顔を寄せていた。
合わさる唇。この前した時と同じ、触れたところがピリピリするけど、前よりも熱い気がするのは高揚しているからか。どちらにせよ、気持ちがいい。
目を閉じて彼の唇の感触に酔いしれていたら、彼は唇を食むような動かした後、顔を離した。間近で窺うように私の顔を覗き込む。
「あの、疲れてる、よな?」
「え?まぁ……」
「そうか……」
思いっきり残念そうな顔。
大型犬が耳と尻尾を垂らしてしょげているみたいだ。可愛らしくて思わず破顔してしまう。
「大丈夫」
しょんぼりする彼の顔を両手で包み込むと、顔を上げさせた。
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