彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「佐田君……」

「蔵原は彼をまだ忘れられないんだろう。気持ちがあるんなら話し合えばいい。そうじゃないとどっちにもお互い進めないんじゃないのか?」

「かくれんぼは鬼に見つかったらおしまいだから、覚悟はした。彼と向き合って、もう一度きちんと別れる」

「別れてたのに、もう一度別れる?何を言っているんだか、君らしいな。どうなっても俺は味方だから、何でも相談しろよ。とにかく今日は俺が帰りに送るからな。蔵原は何限までだ?俺は最後まであるからさ」

「私も最後まであるけど、今日の帰りは彼が迎えに来ると言ってるの。本当かまだわからないけれどね。外交官は忙しいから」

「蔵原に危険が迫ってるとわかってるんだ、俺なら仕事なんて放ってでも絶対来るよ。外交官様にはそうはいかないかもしれないけどな。そうしたら俺の出番だ」

「佐田君ったら……ありがとう」

「とにかく、どっちにしろ終わったら連絡するよ」

「うん。私もわかったら連絡するね」

「とにかく、気を付けろよ。予備校内も知らない人間が多い」

「うん。今日は防犯ブザーにクマよけの鈴も持ってきた」

「あはは、お前は変わらないなあ。学生時代も持って歩いてたもんな」

「最近は使ってなかったから探しちゃった。見つかってよかったわ」

「じゃあな」

 夜に入り、玲さんから連絡が来た。予定より少し遅くなると書いてあり、やはり仕事が忙しいようだった。

大丈夫だから別な日に約束しましょうと連絡したが、明日は休みだし、遅くなっても必ず迎えに行くと書いてあった。

 最終授業のあとも予想以上に質問へ来る学生が多くて、閉館時間ギリギリまで説明していたら彼からの連絡を見る暇がなかった。

 館内に閉館前の音楽がかかった。もうすぐ閉館だ。自習室も閉まる。

 「詳しくは明日また授業でとりあげて説明をしますので、今日はここまでにしましょう」

 「はい、ありがとうございました」

 「先生、さようなら」
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