彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 「みんな、遅いから気を付けて帰ってください」

 「はーい」

 手を振って帰って行く学生たちの背中を見送り、顔をあげた。

 すると、教室の入り口にたたずむスーツ姿の彼が見えた。すごい目で横を通る学生をにらんでいる。

 彼らは彼が予備校の人で時間ギリギリだったので睨んでいると思ったのか、頭を下げながら急いで荷物を持って出て行った。

 「琴乃。大勢の若い男が君に夢中なんだな。だから昨日のようなことになるんだ」

 「若い男って何を言っているんですか?生徒は若くて当たり前です。私は予備校の教師よ」

 「教師と生徒の禁断の愛とかよくあるだろう。しかも予備校の男子学生はちょうど年齢的にも狩りをしたがる危険な時期だ。君は自分がいかに魅力的なのかをわかっていない」

 彼は私に向かって歩いてきた。そして手を差し伸べた。

 「さあ、行こうか。まさかこんな時間まで学生に囲まれているとは思わなかった」

 すると、私が戸惑っているのを見て、ふっと笑いながら私の手を引いた。そして昔のようにさっとバッグを彼が持ってくれた。

 出口を出たところに佐田君が立っていた。私は立ち止まった。

 「佐田君……」
 
 玲さんはふっと笑うと丁寧に佐田君に頭を下げた。慌てた様子は全くない。

 「ああ……はじめまして。藤堂玲といいます。ご存じかもしれませんが、琴乃の元交際相手です」

 「こちらこそ、はじめまして。蔵原の学生時代からの友人で、いや、今は親友で同僚の佐田といいます」

 「僕がいない間、琴乃を助けてくださりありがとうございました」

 「あなたと蔵原は一年前に別れたと聞いています。僕がいない間っておかしくありませんか?しかし、僕の存在をまるで心配してないようですね。腹が立つな。さすがに誰にも落ちなかった蔵原が選んだだけはある。あなたは想像以上ですよ」

 「佐田君……」
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